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エンジェルさん、こんにちは。 婚活ブログ小説 連載36 作 エンジェルおじさん

《前回までのあらすじ・・・実家から戻った圭子は、編集長の茂木に新しい雑誌の編集長のポストを用意してあるという話を聞くのだが・・・》

第6章  赤い糸の伝説⑦

編集長の茂木の話では、創刊は早ければ年内を予定しているらしい。茂木は、タバコを立て続けに吸いながら熱く語ったのだった。

『そんなにプレッシャーを感じる必要はないぞ。出すからには売れる本を作らなきゃならんが、ありきたりのゴシップネタやファッション雑誌にするつもりはない。まあ、従来の女性週刊誌の領域に踏み込むつもりもないしな。もちろん俺も出来る限りのバックアップはするよ。前向きに考えてくれ』

圭子は、しばらく考えさせてほしいと、茂木に伝えその場をいったん離れた。

新しい雑誌の話は圭子にとっても魅力的なことだった。編集長のポストはともかく、“大人の女性のための週刊誌”というテーマに大きく惹かれたのだ。圭子は茂木の下で10年以上も働いてきた。普段は冗談ばかり言って飄々としている茂木だが、こと仕事に関しては妥協を許さない徹底した男だった。圭子が女だからといって、容赦はしない。今でこそ中身も見た目も丸くなった茂木だが、最初の頃は他の男性編集部員同様、毎日のように怒鳴られていたものだ。

「お前たちの文章にはハートがない!心をそのまま伝えろ!かっこよく書こうなどと意識するな。飾りはいらんぞ!」が、茂木の口癖だった。

今では圭子が書いた物は、さっと目を通すだけで校了OKとなるが、駆け出しの頃は何度も書き直しをさせられた。

「編集長!どこがいけないんですか?!教えて下さい!」

一度、悔しくて圭子も茂木に食って掛かったことがある。

「ばかたれ!そんなの自分で考えろ!」

「それが分からないから聞いてるんです!」

「もう一度ちゃんと考えろ!」

「わかりません。私はこれが一番いいと思いました。これが、ダメだというのなら編集長が訂正したものを見せて下さい」

「?!・・・・・」

一瞬、その場が凍りついた。若い男性編集部員も口を開けて様子を見ている。『うわ!とうとう言っちゃった!』という顔をして。

「あのなあ、俺が書いてもお前の思ったこととは違うだろが!それじゃあ答えにならんだろ?」

「いいです!編集長が私と同じ取材をしたとして書いてみて下さい!」

「!!・・・・・・・・」

若かったのだ。仕事が面白くなりかけてきた頃でもあった。自分の書き物に少しずつ自信がついてきた頃である。そんなに偉そうな事を言うのなら、茂木が書いた物を見せてみろ、というやけっぱちの気持ちになっていた。

茂木は、ニヤリとすると自分の机に戻って5分ほどで圭子の原稿に赤ペンで修正と加筆を入れた。

再び、圭子のところに戻ってくると、ポンと原稿を投げて今度は小さい声でこう言った。

「こんなサービスをするのは最初で最後だ。言っておくがこの通りに原稿をまとめるんじゃないぞ。お前なりにもう一度踏まえた上で書き上げろ!」

記事は、ある伝統工芸士の取材記事だった。気難しく寡黙な職人は、取材するのも一苦労だった。受け答えが少ない分、圭子の主観が多くなるのはしかたのないことだった。

圭子は茂木が修正した原稿を読んだ。

(あ!)

読みやすい。大胆に圭子が書いた飾りの文章は削られていた。加筆された文章はくどくない。シンプルで優しく語りかけるような言葉で、老齢の工芸士の紹介がなされていた。確かに茂木が書いた文章の方が、上手い。どうして無骨で無神経な茂木みたいな男が書いた文章がこんなに優しく響くのだろう。それ以来、圭子は茂木に対して一目置くようになったのだ。

(兵頭編集長か・・・)

圭子は、心の中でつぶやく。なんだかくすぐったいような気持ちになる。自分がデスクに座って、編集部員を前にあれこれ指示したりしている。想像出来なくもない。悪くないなと思う。でもそうなったらそうなったで、きっと忙しくなるんだろうな。結婚なんてまた遠のいていくかも。結婚?まだ、結婚の話なんか出ていないのに。また、心の中で溜息と苦笑いをする。

 

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(博さん、何やってるんだろう?)

朝から電話もメールもない博に対して、圭子はだんだん腹が立ってきた。ちょっとぐらい時間作ってメールぐらいしたらいいのに!

結局、圭子は紗子がいる店に行くことになる。予定していた取材も、圭子が実家に帰ったことで早くから代わりの者が向かっていたし、次号の編集会議も特に目新しいものはなくすぐに終わったからだ。このまま博のマンションに向かおうかとも考えたが、行ってもいないのは分かっている。いれば連絡があるはずだし。紗子には悪いが、博から連絡が来るまで時間つぶしを兼ねて会いに行ったようなものだ。

紗子がやってるブティックのすぐ近くの日本料理店に着いたのは19時を少し回った頃だった。奥の個室の障子を開けると、薄ぼんやりと淡い行灯の光に照らされて、並んで座っている紗子とスーツ姿の男が見えた。掘り炬燵式のテーブルの上には、すでに料理の皿やビールなどが並んでいた。

「圭子!忙しいのに来てくれてありがとう!紹介するわね、こちら平岡さん、そしてこちらが友人の圭子、兵頭圭子さん」

「どうも、初めまして」

「こんばんは。初めまして」

圭子は、うつむきながらか細い声で話す男を見た。

(え?!竹之内豊そっくり?!って・・・・)

そこには、にこにことほほ笑む人の良さそうな顔があった。どう見ても俳優の竹之内豊には見えない。どちらかといえば最近、出なくなったコンビでやっていた芸人に似ている。まさか、この席に博がいるはずはないと思ってはいたが、博によく似た男がいると思っていた圭子は拍子抜けしたのだった。

「あはは!圭子、どこが竹之内豊に似てるのよ?!って思ってるでしょう?でもね、横顔をこの位置で見たらそっくりなのよ。口の辺りなんか似てるでしょう?」

確かにそう言われれば似てなくもない。男は紗子が一人でぺらぺらとしゃべってるのを、相変わらずにこにこしながら黙って聞いている。紗子が今まで付き合ってきた男とは全然違うタイプの人間だ。いったい紗子はどこが気に入ったのだろう?男の方もそうだ。自分を中心に世界が回っていると考えている我儘な紗子のどこがいいのだろう。

紗子は甲斐甲斐しく大皿から料理を取り分けたり、コップにビールを注いだりしている。しばらく様子を見ていると、何となくお似合いのような気もしてきた。

「圭子、私たち結婚することに決めたから!」

「え!ホント?いつ?」

相変わらず平岡という男はにこにこしながら聞いている。

その時、ブーン、ブーンと圭子のバッグの中から携帯のバイブが振動する音が聞こえた。着信を見ると博だ。あわてて携帯を取り出して手で隠して小声で話す。

「もしもし、博さん?どうしたの?」

「すみません。急な出張で神戸に行ってたものですから・・・。電話に出れなくてごめんなさい。圭子さん、今から会えますか?話したいことがあるんだけど・・・」

つづく

 

 

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エンジェルさん、こんにちは。 婚活ブログ小説 連載35回目   作 エンジェルおじさん

《前回までのあらすじ・・・伯母がしつこく勧める見合いを断るために圭子はついに博との交際を打ち明けるのだった。》

第6章  赤い糸の伝説⑥

久しぶりに実家で過ごした圭子だが、母が退院した翌日の午後には東京に戻っていた。思っていたよりも母は元気なことに圭子はひとまず安心した。あれから伯母が帰った後も両親から博のことをさんざんに尋ねられた。どんな仕事をしているのか?出身はどこなのか?どんな人なのか?思いつくままにである。結局、父が『落ち着いたら一度連れて来なさい』ということで話は終わった。母の健忘症の心配はあったが、『近いうちにまた来るから・・・』とだけ言い残し実家を後にした。

出版社に戻った圭子は、溜まっていたデスクワークを片付けた後、遅い昼食を取りに外に出た。博には東京に戻る電車の中からメールをしたのだが、返事はなかった。(今日は忙しいのかもしれない)

伯母や両親には博との交際の件は打ち明けたが、付き合いが始まったばかりの二人の関係はまだあやふやだった。父は『落ち着いたら連れて来なさい』と言っていたが、連れて来いもなにもまだ結婚の話すら出てないのだ。付き合い始めてから1か月が経とうとしている。1週間のうちに2~3回は会っているし、博の部屋にも泊まった。でもこれからのことは何もわからない。出版社の仕事は楽しいしやりがいもある。結婚したくないわけではないが、まだ博との将来は想像がつかない。むしろこのままお付き合いが続いて、時々料理を一緒に作ったり、部屋で好きなDVDを観てまったりしたり、週末だけ泊まるのも悪くないかななどと思ってしまう。しかし、2,3日逢わないだけでこんなにも想いはつのるものなのか。

(早く逢いたい・・・。仕事が終わったら博さんのマンションに行こうかな)

圭子は会社の近くの喫茶店で、パスタを食べながらぼんやりと考えていた。もう一度、博にメールをしようと携帯を取り出したら、ちょうど友人の紗子からの着信がきた。

「久しぶり!元気?圭子、今日時間ある?」

「もう・・・、相変わらずね。どうしたのよ?」

「へへ、例の結婚相談所で知り合った彼を紹介したいからさあ、今夜一緒に食事しない?」

「え!」

相変わらず紗子は、勝手なことばかり言う。

「今日はまだ仕事が何時に終わるか分かんないわ。そうそう、実家の母が倒れて、私も今朝帰ってきたばかりだったのよ」

「あら!あの、お母さん?大丈夫だったの?」

「まあ、大したことはなかったんだけどね。だから仕事もいろいろ溜まってるし今日は難しいかな」

「そう、じゃあしょうがないわね。もし、来れそうだったら来て。場所はうちのブティックの近くの日本料理の店。前に行ったことあるでしょ?」

紗子が言っている店は、前にも紗子に無理やり付き合わされて行ったことがある創作料理のしゃれた店だ。生きのいい魚が自慢でそれなりに味も確かだが、値段も高い。二人で行ったときには結構な値段を取られた気がする。まあ、勘定の殆どは酒代が占めていたのだが。

「分かったわ。行けそうならまたメールするわ」

圭子はそう言ったもののあまり気が進まなかった。紗子の新しい彼氏など別に見たくもない。そういえば紗子の話では、その彼氏のプロフィールが博に似ていた。エンジニアで年収が750万、顔も俳優の竹之内豊にそっくり・・・。まさか博のはずはないが、少し見てみたい気もする。

それにしても博からの電話がない。メールの返事もない。まさか、今夜、紗子が行く日本料理の店に一緒に来ていたりして・・・。

(そんな、ばかな・・・)

圭子は思わず吹き出しそうになった。博なら紗子との会話は5分と続かないだろう。途中で逃げ出すかもしれない。圭子はあまりしつこくメールをするのもどうかと悩んだあげく、簡単なメールを送ることにしたのだった。

『忙しいのかな。今日はお仕事何時に終わりますか?そっちに行ってもいい?圭子』

30分ほどで会社に戻ると、編集長の茂木が圭子の机の近くで待ち構えていた。タバコの匂いがまとわりついている。

「お疲れさん、お袋さんの具合はどうだ?もう戻ってきて大丈夫だったのか?」

「どうもご心配をおかけしました。思っていたよりも大したことはなかったようです」

「そうか。兵頭の実家は箱根だったかな?」

「いえ、小田原です」

「そうだったか。お前、一人娘だったよな?」

「そうです」

「じゃあ、ご両親も心配だなあ」

「大学の時からずっとこっちで一人で暮らしてますから、親も慣れてますよ。それに小田原だと日帰りでいつでも帰れますから・・・」

「うん、うん。ところで、お前、今ちょっと時間あるか?」

そういうと茂木は屋上へと圭子を連れ出した。出版社の屋上は自販機やベンチが置いてあり、社員が休憩できるようになっている。喫煙できるスペースもある。タバコが吸いたい茂木はあえてこの場所を選んだのだろう。ベンチにどっしりと腰かけた茂木は、さっそくタバコと携帯灰皿を取り出した。

 

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「編集長、タバコ吸い過ぎですよ!」

「そうだな。ハハ、しかし、こればっかりはやめられんなあ・・・」

「ところでお話しって何ですか?」

「うむ。そのことなんだがなあ・・・。あ、ところで博とはうまくいってるのか?」

(やっぱり)

博と従弟の関係にある茂木は、博からいろいろと聞いているのだろう。時々は連絡も取っているようだし、博の実家にそれとなく報告しているのかもしれない。

「おかげさまで、うまくいってます。まだ、付き合い始めたばっかりですけど」

「そうか。あいつは昔から女嫌いだと思っていたから、俺もあきらめていたんだが・・・。こんなことなら、もっと早くお前に紹介しとけばよかったよ。ワハハ!」

「・・・・・・」

「それで、結婚の話とかもう出てるのか?」

「まさか。まだ、お互いのこともよく知らないのに・・・」

「そうだよな。ワハハ、まだ、気が早いな」

「編集長、話って博さんのことですか?」

「お、すまん、すまん。実はな、博のことはひとまず置いてだな、お前、新しく出る本のデスクやってみないか?」

「え?!」

「実はな、今度、うちでも女性向けの週刊誌を発刊しようという話があってな。今、新しくスタッフを選考しているところだ。雑誌のコンセプトは『大人の女性のための週刊誌』『電車の中で大人の女性が堂々と読める雑誌』どうだ?かっこいいだろう?大人の女性の本なら、大人の女性のお前がうってつけというわけだ。社主は他所から引っ張って来たらとか言ってるが、俺はお前を推薦した。どうだ、そろそろアタマ、張ってやってみろ!お前ならできるぞ!」

「!・・・・・・・」

「悪い話じゃないぞ。どうだ?」

「!!・・・・・」

つづく

 

 

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エンジェルさん、こんにちは。 婚活ブログ小説 連載34回目 作エンジェルおじさん

《前回までのあらすじ・・・母親の入院で久にしぶり帰った圭子は、やつれた母の変わりように驚くのだった》

第6章  赤い糸の伝説⑤

結局、その後母は変な事を言うわけでもなくベッドでしばらく目をつぶっていた。父が検査の結果を聞いたところ特に問題はなく、予定よりも早く退院する運びとなった。家までは車に乗る距離でもないが、多少ふらつく恐れもあるというので大事を取って、車椅子で自宅まで帰ることにしたのである。父が退院の手続きをすませ圭子が母の荷物を持って病院を出る。母の乗った車椅子は病院の看護師が付き添って押してくれた。家に帰ってのは13時を回ったところだった。

「あ~やっぱり家が一番いいねえ。なんだか寝てばっかりいて余計疲れちゃったよ」

母は家に着くなりソファで横になりほっとしたような表情を見せた。

「そりゃあそうよ。何も悪くなくても一日病院にいるだけでどっか本当に悪くなりそうだわ」

お茶をすすりながら圭子は笑って答えた。

「ところでお前たち腹は減ってないか?」

「あら、お父さん、何も食べてなかったんですか?朝ご飯は?」

「いや、朝は昨日買っておいたパンを食べた。しかしパンだけじゃやっぱり腹にたまらんよ」

「あらあら、じゃあご飯焚きましょうかねえ」

そそくさと母が起き上がろうとするのを見て圭子は思わず言った。

「もう、お母さん!退院したばっかりなんだから、じっとしてなさいよ。お父さんもお昼なんか何でもいいでしょ!」

「ああ、すまん、すまん。じゃあ、せっかくだから寿司でも取ろうか?」

父は典型的な昔気質な男で炊事、洗濯、掃除何一つ出来ない。台所に立とうとすらしない。これで母にもしものことがあったら父は一人でいったいどうなるのかと思う。母のいないこの2~3日は、近くのコンビニやスーパーで弁当やパンなどを買って食べていたようだ。

圭子は近所の馴染みの寿司屋に出前を頼んだ。

「あ、菊寿司さん?出前お願いします。兵頭です。3丁目の・・。そう、嶋田病院の近くの・・・。はい。上にぎり3人前お願いします。あ、はい、ゆっくりいいですよ・・・・『ちょっと混み合ってて30分ぐらい時間かかるって』・・・・はい、お願いします」

電話を切って5分もしないうちに玄関のチャイムが鳴った。

(え?!こんなに早く来たの?)

圭子が玄関に出てみると、すでにドアを開けて入って来たのは、親戚の大叔母だった。そう、いつも圭子に縁談を持ってくる父の姉の“美津子伯母さん”だ。70歳を超えた今も自宅で茶道や生け花などを教えている。趣味でやっている縁談の世話もまとめた結婚は100組を超えるというからすさまじい。圭子は、この大叔母が苦手だった。いつも、矍鑠としていて隙がない。女たるもの慎ましくあるべきだ、という持論そのままに生きてきた、典型的な戦前の昭和の女である。もちろん苦手なのは圭子だけでなく母も父も同じである。

「あら、圭子さん、帰って来てたのね。ちょうどよかったわ。あなたにもお話があるの。それで、史江さんは退院したのね?お邪魔するわよ」

言うなり伯母の美津子はつかつかと家に上がりこんでくる。着物を着て足袋を履いているので、音も立てず滑るように動くのが不気味なほどだ。

「あ、姉さん、いらっしゃったんですか。後で電話をしようと思ってたんですが・・・」

あわてて父も飛び出して来る。

「病院に行ったら、たった今退院したというからそのままこっちに来たんですよ。それで史江さんの具合はもういいの?」

「まあ、なんとか。検査の結果は異状なしとのことです。血圧は高いようですが・・・」

「もう、弘毅さんも家庭菜園ばっかりやって、史江さんに無理させてはだめですよ。手伝わさせてばかりいるんでしょ?」

「いやあ、最近はもう野菜は作ってないのですが・・・」

苦笑いする父を尻目にさっさと母に近寄る。

「史江さん、大変だったわね?お加減はどう?あなたももうあまり無理をせずに用心なさらないといけませんよ」

「お義姉さん、どうもご心配かけてすみません」

母も体を起こしてかしこまっている。家族全員がこの大叔母が来ると固くなるのだ。

(おい、圭子。寿司を追加しておけ!)父が小声で私を小突く。

「あー、私は何も要りませんよ。すぐにおいとましますからね。この後、今日はお茶会がありますからね」

身体の向きを変えると伯母は今度は圭子に向かってこう言った。

「圭子さん、お母様に聞いてらっしゃると思いますが、いい縁談のお話がありますのよ。あなた一度お会いしなさい。しばらくこっちにいるんでしょ?」

「いや、母もそんなに大したことないようなので、明日には帰ろうかと・・・」

「何をおっしゃるの?あなた、いい機会だからしばらくこっちにいなさい。今回はいい縁談ですよ。前の学校の先生よりももっといいわよ」

伯母は風呂敷を広げて、巨峰の箱とお見合い用のアルバム写真を取り出した。

「あ、これつまらないものだけど・・・」

「どうもすみません。有難うございます」

圭子は巨峰を受け取ると、台所に立った。このまま伯母の相手をするのが苦痛でたまらない。

「圭子さん、とにかく写真だけでも見てごらんなさい?東大出てらっしゃるんですよ。銀行の課長さんなんですって!」

「いやあ、伯母さん悪いけど私、銀行員はちょっと・・・・」

「何を言ってるのよ。男の人は真面目にお堅い仕事をされているのが一番よ!ほら、御覧なさい。キリッとしたお顔立ちよ」

伯母がアルバムをめくってみせると、そこには黒縁のメガネをかけてにこりともしていない白い顔が見えた。全体的に白く光って見えるのは頭の毛もかなり薄くなっているからだろう。典型的な銀行員の顔だ。この人の職業を当てなさいというクイズを出したら十中八九、殆どの人が正解を言い当てるのではないだろうか。圭子はなんだかおかしくなってきた。

「笑いごとじゃないですよ、圭子さん。お父さんもお母さんもあなたのことが心配なんですよ。早く結婚して孫の顔でも見せてあげなさい」

「まあ、姉さん、圭子も今朝帰って来たばかりですから、写真は後程ゆっくり見るということで・・・。あ、お寿司の出前取ったんですよ。一緒に食べて行きませんか?」

「お寿司はいりません。弘毅さん、そうやって一人娘だからといっていつまでも甘やかすと、大変なことになりますよ。女は結婚して家庭を守るのが一番の幸せでもあり努めです。とにかく、また明日にでも来ますから、しっかり考えておくんですよ」

言うだけ言うと伯母は風呂敷を畳んで立ち上がろうとした。

 

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「伯母さん、せっかくだけどお見合いはもうお断りして・・・・」

「・・・・・・・・・・」

「お前、伯母さんがせっかく持って来てくれたいい話じゃないか。会うだけでも会ってみたらどうだい?」

母も申し訳なさそうに口を出した。

「お母さんも、お父さんも聞いて。私、今お付き合いしている人がいるの。まだプロポーズはされていないけど、お互いに結婚を考えてるの。今度、紹介しようと思ってるわ。だからもう縁談の話はこれきりにして!」

「?!!・・・・・」

「?!!・・・・・」

「?!!・・・・・」

「本当かい?!」

「いつからお付き合いしてるの?」

「どこに住んでらっしゃる方なの?」

沈黙の後に一斉にみんなが口を開く。

「こんちは~!菊寿司でえす!お待たせしましたあ!」

玄関から威勢のいい声が響いた。

つづく

 

 

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エンジェルさん、こんにちは。 婚活ブログ小説 連載33回目 作 エンジェルおじさん

《前回までのあらすじ・・・博との交際が順調にスタートした圭子。実家の母が入院したと聞いてあわてて帰ってきたのだが・・・》

第6章  赤い糸の伝説④

母が入院している嶋田病院は圭子の実家から国道を挟んですぐの場所にある。個人病院だが地元では評判で、特にここ数年は病棟も増えて増築されているらしい。実家に着いたときには、父は身支度も済んで圭子の到着を待ちわびている様子だった。面会が出来る時間にはまだ早いので、しばらくは家で洗濯したり掃除をしたりと時間をつぶすことにした。久しぶりに実家に帰ったら、愛犬2匹が嬉しそうにハアハア言いながら圭子の足にまとわりついている。このヨークシャーテリヤも雄と雌の老犬だ。

洗濯機に洗濯物を放り込みながら、父と会話する。

「本当にお母さん、大丈夫なの?」

「うん、まあ。大したことはない。ただ、熱が高かったんで、大事を取って入院させたんだ。前の病気のこともあるからな」

前の病気というのは、数年前に患った腎盂炎のことだ。父もしばらく見ないうちに老け込んだような気がする。なんだか体が一回り小さくなったようだ。お茶をすすりながらつぶやくように父は返事をした。

「腎盂炎のときは大変だったもんねえ。もう、お母さんにあまり無理させないでよね」

「うむ」

圭子もそう言ったものの、この父と母ほど典型的なおしどり夫婦はいないと思うのだった。圭子が物心ついた時から父と母がケンカしたのを見たことがない。父も温和な性格で、母ものんびりといつでもニコニコしている。そんな二人に一人娘の圭子は蝶よ花よと育てられた。圭子が東京の大学を出てそのまま東京に住んで就職したいと言い出したときも、『おまえの人生なんだから好きにしなさい』と特に反対もしなかった。ここ数年は父の家庭菜園をたまに手伝ったり熱海や湯河原の温泉に二人で出かけることが唯一の楽しみだったはずだ。

「あのなあ、病院に行ってから分かるかもしれんが・・・。母さん、時々変なことを言ったり、さっき言ったことを忘れたりと、少しボケはじめたかもしれん」

「え!?うそ!」

「いや、どうもそれっぽい。痴呆が始まったかもしれん」

「まさか、お母さんに限って・・・」

「この前も母さん、料理をしながらTVを見てるうちに忘れてしまって、煮物を駄目にしてしまった」

「なんだ、そんなことなんか・・・私だってあるわよ。あはは」

「しかしお前、肉じゃがが焦げてるんだぞ。焦げ臭い匂いがするから、ガスの火が付きっぱなしになってんじゃないか?って何度も言ったんだが、母さん頑として動こうとしないんだ。結局わしが火を止めたんだがな」

「!・・・・・・・・・」

「後で気づいたのか、しょんぼりしてたよ」

「まあ、二人ともそれぐらいの歳になれば物忘れもひどくなるわよ。そんなに深刻にならないでよ」

東京の隣に実家があるというのに正月しか帰らない。日々の変化を知らない圭子は、実際にそんなに深刻なことだとは思いもしなかった。洗濯物を干して、部屋に掃除機をかけて一段落したところで、父と連れ立って母のいる病院に向かうことにした。目と鼻の先にある病院だから歩いて5分もかからない。

新館の方にある病棟にいるとのことで、直接、新館のナースセンターへ向かう。ナースセンターで面会の記帳をしてから母のいる病室へと入った。ナースセンターの真ん前の部屋で、6人部屋だがベッドは2つ空いているようだ。窓際の近くのベッドに母は寝ているらしい。カーテンが半分開いていて母の顔がすぐに見えた。

「お母さん!大丈夫?」

「圭子!来てくれたの?」

「うん。今朝一番に着いたのよ」

「仕事、休んだのかい?忙しいんじゃないのかい?そんなに大したことないのにねえ」

「大丈夫よ。それより具合はどう?」

「今日は割といいよ。昨日は熱がまた出てきつかったんだよ」

確かに母の顔は病気のせいもあるだろうが、しばらく見ないうちに頬がこけてすっかり痩せてしまった。母の顔を見てるだけで、涙が溢れそうになる。

「お母さん、ごめんね。たまにしか帰って来れなくて・・・」

「いいんだよ。元気でいてくれれば・・・」

母も涙ぐんでいる。

「母さん、後で嶋田先生のところで検査の結果を聞いて来るから。もう何ともなければ退院のはずだから」

後ろから父がしんみりとした空気を変えようと、声をかけた。

「もう、何ともないって言ってるのにねえ。検査ばっかりするんだもの。相変わらずこの病院は金儲け主義だわねえ」

「ふふっ。そんな文句言う元気があるなら大丈夫だわ」

「・・・・・・・・・・」

 

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思ったより元気そうだったので圭子は安心した。この調子なら今日か明日にでも退院できるのではないかと思う。しばらくは休暇を取って母のそばにいてやろう。そうだ、少し元気になったら温泉でも連れていこうか。車の運転はしばらくしてないが、近くなら何とかなる。湯河原に家族でよく行った旅館がある。小さいが風情があって、料理が美味しかった記憶がある。そんなことを考えていると、母がまた口を開いた。

「お父さん、そろそろ幹夫さんが帰って来るんじゃないかい?晩御飯作ってやらないと、お腹すかせて待ってるわ」

「?!」

「・・・・・・・・・・」

「母さん!幹夫さんて誰?あの幹夫叔父さんのこと?」

幹夫というのは父の末の弟で、まだ圭子が幼い頃に同居していた親戚だ。苦学しながら弁護士を目指して、何度目かの司法試験で見事合格するも、圭子が小学校に入学する頃に病に倒れて亡くなった。

後ろから父がそっと何も言うな、というようなジェスチャーをする。

「母さん、幹夫はしばらくは帰って来んて言ってたから心配せんでいい」

「そうかい。いつもご飯3杯は召し上がるからねえ。今日は圭子もいるしたくさん料理作らなきゃいけなと思ってたんだけどねえ」

「・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・」

母はそう言うなりまた目をつぶった。自分の言ったことの間違いに気付いたのか、疲れたのかは表情を見るだけではわからなかった。

つづく

 

 

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エンジェルさん、こんにちは。 婚活ブログ小説 連載32回目 作 エンジェルおじさん

《前回までのあらすじ・・・出版社勤務の兵頭圭子38歳。圭子が働く職場の編集長の従弟が冨澤博41歳。結婚を考え始めたアラフォー同士は自然に惹かれあう。そんなとき圭子の母が入院したと聞いて、久しぶりに実家に帰ることにしたのだが・・・》

第6章  赤い糸の伝説③

神奈川とはいっても圭子の実家は神奈川県でも静岡寄りの小さな町だ。電車とバスを乗り継いで2時間近くかかる。圭子は父から電話をもらった翌日の早朝にマンションを出た。博にも電話しようと思ったが、朝も早いし心配をかけたくないと思い簡単なメールだけ送っておいた。意外にもすぐに返事が来て『気を付けていってらっしゃい。お母さん、心配ですね。落ち着いたらお電話待ってます。博』とだけ記してあった。

あれからもう博のところには、2回も泊まった。初めて泊まった次の日は結局、近くのショッピングセンターや商店街をぶらぶらしただけで部屋に戻り、また料理を作ったりDVDを観ながら、まったりとした時間を過ごしたのである。その日もまた連泊した圭子は、博のマンションから会社へ向かったのだ。圭子は日が経つごとに、博のことが好きになっていく自分の気持ちを抑えきれなかった。仕事で遅くなったときも電話やメールで連絡を取り合っている。お互いに久しぶりの恋人である。酸いも甘いも噛み分けたいい大人ではあるが、二人して高校生の初恋のような甘い気持ちに浸っていたのである。

JRの早朝の下りの車内はガラガラで、4人掛けの向かい合わせの席に一人でゆったりと座っている。圭子は駅の売店で買ってきたホットコーヒーを飲みながら、博のメールをぼんやりと眺めていた。大体、二人ともメールは苦手な方である。だらだらとメールを打つぐらいなら、直接話した方が早い、と思うのだ。でも、さすがにこの時間のこの車内では、たとえ乗客が少なくても携帯で大っぴらに話すわけにはいかない。

『心配してくれてありがとう。気を付けて行ってきます。落ち着いたら電話します。  博さんに会いたいわ・・・。圭子』と、圭子にとってはそれでも長い文章の返信をしたのである。おまけに『会いたいわ・・・』などと恥ずかしくなるような言葉まで付け加えて。さすがにハートマークの絵文字はなかったが・・・。

『ありがとう!僕も会いたいよ。東京に戻る日が分かったら教えて。迎えに行くよ。圭子のことをいつも考えている。博』と、博にとっても精一杯長い文章の返信メールがすかさず届く。博にとってもメールでしか見ることが出来ない、恥ずかしいセリフなのだろう。

『私も、博さんのことばかり考えています。土曜日には多分帰れると思うので、また連絡しますね。 』と返信したきりメールは来なくなった。

(面と向かって“圭子”と呼び捨てにしたことはないのにメールでは“圭子”だって!)

 

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圭子は冷えてしまった缶コーヒーを飲みながら、紗子が電話で言っていたことをふと思い出した。

『例の結婚相談所で知り合った、竹之内豊似の男と結婚することにしたわ!』

(まさかね・・・)

紗子が結婚すると言った男が、博のはずがない。竹之内豊にいくら似てるからといって・・・。しかし、結婚相談所に入会したタイミングといい、職業がエンジニアといい、41歳という年齢といい、気になることがいくつもあった。しかし、博は正直に結婚相談所に入会していたことを、打ち明けてくれた。そして紹介状も見ていないし、もう相談所はやめるとも言っていた。紗子から聞いたのが昨晩のことで、お見合いしたのが2週間ぐらい前の話で、プロポーズされたのはつい最近の話だという。これがもし博なら・・・?二股?フタマタ?まさか?冨澤がそんな器用なことが出来るわけがない。初めて冨澤のマンションでキスをしたとき、博は震えていた。声が裏返り、キスも歯と歯がぶつかるだけのぎこちないキスだった。あれが演技だとしたら主演男優賞ものだ。

(まさかねえ・・・)

そんなに悩むぐらいなら、メールでそれとなく聞き出せばいいものを、そこまでは怖くて出来ない圭子だった。

30分ぐらい目をつぶっていたらいつのまにかウトウトしていたようだ。見渡すと車内も少しずつ乗客が増えていた。圭子の実家がある駅は観光の街でもある。近くには有名な温泉もあり、市内にはショッピングデパートもある。山手の方には圭子と紗子が通った県下でも有数の女子高(お嬢様学校として)がある。圭子が駅に着いたのはまだ朝の7:30頃だったが、通勤客に交じって観光客などですでにごったがえしていた。実家まではさらにバスに乗って20分ぐらいかかるのだが、次のバスが来るまでには40分以上もあった。圭子は駅前に客待ちをしているタクシーに乗り実家へと向かった。

朝早く、父には大体の到着時間を連絡していたので、きっと起きているだろう。

(お父さん、朝ご飯とかどうしてるのかな?・・・)

母がいないと何も出来ない父だった。ここ2・3日は洗い物、掃除、洗濯何もしていないかもしれない。

「ただいま!お父さん、起きてる?」

キャン、キャン!!ドアを開けたとたん愛犬が駆け寄ってきた。

つづく

 

 

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