エンジェルさん、こんにちは。 婚活ブログ小説 連載35回目   作 エンジェルおじさん

《前回までのあらすじ・・・伯母がしつこく勧める見合いを断るために圭子はついに博との交際を打ち明けるのだった。》

第6章  赤い糸の伝説⑥

久しぶりに実家で過ごした圭子だが、母が退院した翌日の午後には東京に戻っていた。思っていたよりも母は元気なことに圭子はひとまず安心した。あれから伯母が帰った後も両親から博のことをさんざんに尋ねられた。どんな仕事をしているのか?出身はどこなのか?どんな人なのか?思いつくままにである。結局、父が『落ち着いたら一度連れて来なさい』ということで話は終わった。母の健忘症の心配はあったが、『近いうちにまた来るから・・・』とだけ言い残し実家を後にした。

出版社に戻った圭子は、溜まっていたデスクワークを片付けた後、遅い昼食を取りに外に出た。博には東京に戻る電車の中からメールをしたのだが、返事はなかった。(今日は忙しいのかもしれない)

伯母や両親には博との交際の件は打ち明けたが、付き合いが始まったばかりの二人の関係はまだあやふやだった。父は『落ち着いたら連れて来なさい』と言っていたが、連れて来いもなにもまだ結婚の話すら出てないのだ。付き合い始めてから1か月が経とうとしている。1週間のうちに2~3回は会っているし、博の部屋にも泊まった。でもこれからのことは何もわからない。出版社の仕事は楽しいしやりがいもある。結婚したくないわけではないが、まだ博との将来は想像がつかない。むしろこのままお付き合いが続いて、時々料理を一緒に作ったり、部屋で好きなDVDを観てまったりしたり、週末だけ泊まるのも悪くないかななどと思ってしまう。しかし、2,3日逢わないだけでこんなにも想いはつのるものなのか。

(早く逢いたい・・・。仕事が終わったら博さんのマンションに行こうかな)

圭子は会社の近くの喫茶店で、パスタを食べながらぼんやりと考えていた。もう一度、博にメールをしようと携帯を取り出したら、ちょうど友人の紗子からの着信がきた。

「久しぶり!元気?圭子、今日時間ある?」

「もう・・・、相変わらずね。どうしたのよ?」

「へへ、例の結婚相談所で知り合った彼を紹介したいからさあ、今夜一緒に食事しない?」

「え!」

相変わらず紗子は、勝手なことばかり言う。

「今日はまだ仕事が何時に終わるか分かんないわ。そうそう、実家の母が倒れて、私も今朝帰ってきたばかりだったのよ」

「あら!あの、お母さん?大丈夫だったの?」

「まあ、大したことはなかったんだけどね。だから仕事もいろいろ溜まってるし今日は難しいかな」

「そう、じゃあしょうがないわね。もし、来れそうだったら来て。場所はうちのブティックの近くの日本料理の店。前に行ったことあるでしょ?」

紗子が言っている店は、前にも紗子に無理やり付き合わされて行ったことがある創作料理のしゃれた店だ。生きのいい魚が自慢でそれなりに味も確かだが、値段も高い。二人で行ったときには結構な値段を取られた気がする。まあ、勘定の殆どは酒代が占めていたのだが。

「分かったわ。行けそうならまたメールするわ」

圭子はそう言ったもののあまり気が進まなかった。紗子の新しい彼氏など別に見たくもない。そういえば紗子の話では、その彼氏のプロフィールが博に似ていた。エンジニアで年収が750万、顔も俳優の竹之内豊にそっくり・・・。まさか博のはずはないが、少し見てみたい気もする。

それにしても博からの電話がない。メールの返事もない。まさか、今夜、紗子が行く日本料理の店に一緒に来ていたりして・・・。

(そんな、ばかな・・・)

圭子は思わず吹き出しそうになった。博なら紗子との会話は5分と続かないだろう。途中で逃げ出すかもしれない。圭子はあまりしつこくメールをするのもどうかと悩んだあげく、簡単なメールを送ることにしたのだった。

『忙しいのかな。今日はお仕事何時に終わりますか?そっちに行ってもいい?圭子』

30分ほどで会社に戻ると、編集長の茂木が圭子の机の近くで待ち構えていた。タバコの匂いがまとわりついている。

「お疲れさん、お袋さんの具合はどうだ?もう戻ってきて大丈夫だったのか?」

「どうもご心配をおかけしました。思っていたよりも大したことはなかったようです」

「そうか。兵頭の実家は箱根だったかな?」

「いえ、小田原です」

「そうだったか。お前、一人娘だったよな?」

「そうです」

「じゃあ、ご両親も心配だなあ」

「大学の時からずっとこっちで一人で暮らしてますから、親も慣れてますよ。それに小田原だと日帰りでいつでも帰れますから・・・」

「うん、うん。ところで、お前、今ちょっと時間あるか?」

そういうと茂木は屋上へと圭子を連れ出した。出版社の屋上は自販機やベンチが置いてあり、社員が休憩できるようになっている。喫煙できるスペースもある。タバコが吸いたい茂木はあえてこの場所を選んだのだろう。ベンチにどっしりと腰かけた茂木は、さっそくタバコと携帯灰皿を取り出した。

 

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「編集長、タバコ吸い過ぎですよ!」

「そうだな。ハハ、しかし、こればっかりはやめられんなあ・・・」

「ところでお話しって何ですか?」

「うむ。そのことなんだがなあ・・・。あ、ところで博とはうまくいってるのか?」

(やっぱり)

博と従弟の関係にある茂木は、博からいろいろと聞いているのだろう。時々は連絡も取っているようだし、博の実家にそれとなく報告しているのかもしれない。

「おかげさまで、うまくいってます。まだ、付き合い始めたばっかりですけど」

「そうか。あいつは昔から女嫌いだと思っていたから、俺もあきらめていたんだが・・・。こんなことなら、もっと早くお前に紹介しとけばよかったよ。ワハハ!」

「・・・・・・」

「それで、結婚の話とかもう出てるのか?」

「まさか。まだ、お互いのこともよく知らないのに・・・」

「そうだよな。ワハハ、まだ、気が早いな」

「編集長、話って博さんのことですか?」

「お、すまん、すまん。実はな、博のことはひとまず置いてだな、お前、新しく出る本のデスクやってみないか?」

「え?!」

「実はな、今度、うちでも女性向けの週刊誌を発刊しようという話があってな。今、新しくスタッフを選考しているところだ。雑誌のコンセプトは『大人の女性のための週刊誌』『電車の中で大人の女性が堂々と読める雑誌』どうだ?かっこいいだろう?大人の女性の本なら、大人の女性のお前がうってつけというわけだ。社主は他所から引っ張って来たらとか言ってるが、俺はお前を推薦した。どうだ、そろそろアタマ、張ってやってみろ!お前ならできるぞ!」

「!・・・・・・・」

「悪い話じゃないぞ。どうだ?」

「!!・・・・・」

つづく

 

 

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