エンジェルさん、こんにちは。 婚活ブログ小説 連載36 作 エンジェルおじさん

《前回までのあらすじ・・・実家から戻った圭子は、編集長の茂木に新しい雑誌の編集長のポストを用意してあるという話を聞くのだが・・・》

第6章  赤い糸の伝説⑦

編集長の茂木の話では、創刊は早ければ年内を予定しているらしい。茂木は、タバコを立て続けに吸いながら熱く語ったのだった。

『そんなにプレッシャーを感じる必要はないぞ。出すからには売れる本を作らなきゃならんが、ありきたりのゴシップネタやファッション雑誌にするつもりはない。まあ、従来の女性週刊誌の領域に踏み込むつもりもないしな。もちろん俺も出来る限りのバックアップはするよ。前向きに考えてくれ』

圭子は、しばらく考えさせてほしいと、茂木に伝えその場をいったん離れた。

新しい雑誌の話は圭子にとっても魅力的なことだった。編集長のポストはともかく、“大人の女性のための週刊誌”というテーマに大きく惹かれたのだ。圭子は茂木の下で10年以上も働いてきた。普段は冗談ばかり言って飄々としている茂木だが、こと仕事に関しては妥協を許さない徹底した男だった。圭子が女だからといって、容赦はしない。今でこそ中身も見た目も丸くなった茂木だが、最初の頃は他の男性編集部員同様、毎日のように怒鳴られていたものだ。

「お前たちの文章にはハートがない!心をそのまま伝えろ!かっこよく書こうなどと意識するな。飾りはいらんぞ!」が、茂木の口癖だった。

今では圭子が書いた物は、さっと目を通すだけで校了OKとなるが、駆け出しの頃は何度も書き直しをさせられた。

「編集長!どこがいけないんですか?!教えて下さい!」

一度、悔しくて圭子も茂木に食って掛かったことがある。

「ばかたれ!そんなの自分で考えろ!」

「それが分からないから聞いてるんです!」

「もう一度ちゃんと考えろ!」

「わかりません。私はこれが一番いいと思いました。これが、ダメだというのなら編集長が訂正したものを見せて下さい」

「?!・・・・・」

一瞬、その場が凍りついた。若い男性編集部員も口を開けて様子を見ている。『うわ!とうとう言っちゃった!』という顔をして。

「あのなあ、俺が書いてもお前の思ったこととは違うだろが!それじゃあ答えにならんだろ?」

「いいです!編集長が私と同じ取材をしたとして書いてみて下さい!」

「!!・・・・・・・・」

若かったのだ。仕事が面白くなりかけてきた頃でもあった。自分の書き物に少しずつ自信がついてきた頃である。そんなに偉そうな事を言うのなら、茂木が書いた物を見せてみろ、というやけっぱちの気持ちになっていた。

茂木は、ニヤリとすると自分の机に戻って5分ほどで圭子の原稿に赤ペンで修正と加筆を入れた。

再び、圭子のところに戻ってくると、ポンと原稿を投げて今度は小さい声でこう言った。

「こんなサービスをするのは最初で最後だ。言っておくがこの通りに原稿をまとめるんじゃないぞ。お前なりにもう一度踏まえた上で書き上げろ!」

記事は、ある伝統工芸士の取材記事だった。気難しく寡黙な職人は、取材するのも一苦労だった。受け答えが少ない分、圭子の主観が多くなるのはしかたのないことだった。

圭子は茂木が修正した原稿を読んだ。

(あ!)

読みやすい。大胆に圭子が書いた飾りの文章は削られていた。加筆された文章はくどくない。シンプルで優しく語りかけるような言葉で、老齢の工芸士の紹介がなされていた。確かに茂木が書いた文章の方が、上手い。どうして無骨で無神経な茂木みたいな男が書いた文章がこんなに優しく響くのだろう。それ以来、圭子は茂木に対して一目置くようになったのだ。

(兵頭編集長か・・・)

圭子は、心の中でつぶやく。なんだかくすぐったいような気持ちになる。自分がデスクに座って、編集部員を前にあれこれ指示したりしている。想像出来なくもない。悪くないなと思う。でもそうなったらそうなったで、きっと忙しくなるんだろうな。結婚なんてまた遠のいていくかも。結婚?まだ、結婚の話なんか出ていないのに。また、心の中で溜息と苦笑いをする。

 

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(博さん、何やってるんだろう?)

朝から電話もメールもない博に対して、圭子はだんだん腹が立ってきた。ちょっとぐらい時間作ってメールぐらいしたらいいのに!

結局、圭子は紗子がいる店に行くことになる。予定していた取材も、圭子が実家に帰ったことで早くから代わりの者が向かっていたし、次号の編集会議も特に目新しいものはなくすぐに終わったからだ。このまま博のマンションに向かおうかとも考えたが、行ってもいないのは分かっている。いれば連絡があるはずだし。紗子には悪いが、博から連絡が来るまで時間つぶしを兼ねて会いに行ったようなものだ。

紗子がやってるブティックのすぐ近くの日本料理店に着いたのは19時を少し回った頃だった。奥の個室の障子を開けると、薄ぼんやりと淡い行灯の光に照らされて、並んで座っている紗子とスーツ姿の男が見えた。掘り炬燵式のテーブルの上には、すでに料理の皿やビールなどが並んでいた。

「圭子!忙しいのに来てくれてありがとう!紹介するわね、こちら平岡さん、そしてこちらが友人の圭子、兵頭圭子さん」

「どうも、初めまして」

「こんばんは。初めまして」

圭子は、うつむきながらか細い声で話す男を見た。

(え?!竹之内豊そっくり?!って・・・・)

そこには、にこにことほほ笑む人の良さそうな顔があった。どう見ても俳優の竹之内豊には見えない。どちらかといえば最近、出なくなったコンビでやっていた芸人に似ている。まさか、この席に博がいるはずはないと思ってはいたが、博によく似た男がいると思っていた圭子は拍子抜けしたのだった。

「あはは!圭子、どこが竹之内豊に似てるのよ?!って思ってるでしょう?でもね、横顔をこの位置で見たらそっくりなのよ。口の辺りなんか似てるでしょう?」

確かにそう言われれば似てなくもない。男は紗子が一人でぺらぺらとしゃべってるのを、相変わらずにこにこしながら黙って聞いている。紗子が今まで付き合ってきた男とは全然違うタイプの人間だ。いったい紗子はどこが気に入ったのだろう?男の方もそうだ。自分を中心に世界が回っていると考えている我儘な紗子のどこがいいのだろう。

紗子は甲斐甲斐しく大皿から料理を取り分けたり、コップにビールを注いだりしている。しばらく様子を見ていると、何となくお似合いのような気もしてきた。

「圭子、私たち結婚することに決めたから!」

「え!ホント?いつ?」

相変わらず平岡という男はにこにこしながら聞いている。

その時、ブーン、ブーンと圭子のバッグの中から携帯のバイブが振動する音が聞こえた。着信を見ると博だ。あわてて携帯を取り出して手で隠して小声で話す。

「もしもし、博さん?どうしたの?」

「すみません。急な出張で神戸に行ってたものですから・・・。電話に出れなくてごめんなさい。圭子さん、今から会えますか?話したいことがあるんだけど・・・」

つづく

 

 

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