交際開始からご成婚までを共にするパートナー、それが私たち結婚相談所の役割です
福岡で200組以上のご成婚実績を誇るベテランカウンセラーがあなたの婚活をサポートする結婚相談所「エンジェルロード」
ご相談者様が結婚に対して何を求めているのかをしっかりとヒアリング、1年以内のご成婚を目標とした具体的な婚活計画を一緒にプランニング致します。
婚活は交際開始がゴールではありません、一生をともにする伴侶を決める大切な交際期間中に生じてくる不安や迷いについても、担当カウンセラーがマンツーマンでご相談に乗りますので、安心して当結婚相談所にお任せ下さい。
第7章 プロポーズ④
「編集長、ちょっとよろしいでしょうか?」
「おう!いいぞ、何だ?」
「この前のお話しですが・・・」
「おう、おう、例の件だな。ちょっと待て、また屋上に行こう。タバコ取って来る」
圭子は、博からプロポーズを受けた2日後には編集長へ博との結婚について報告をしたのだった。先週の金曜日に博のマンションに泊まってから、今朝の月曜日までずっと博と一緒にいる。明日は、いよいよ博が神戸に発つ日だ。博とはこれからのことについてじっくりと話し合った。まず、博のマンションはしばらくはそのままにしておくこと。圭子が住んでいるマンションは解約して博の部屋へ引っ越すこと。神戸と東京の通い婚のような状態だが、お互いに行ったり来たりすること。年内にはお互いの家に挨拶に行って、承諾をもらったら入籍すること。海外赴任の予定はまだわからないが、先に博が赴任をして落ち着いたら圭子も追いかけること。そして圭子の仕事は・・・。
「せっかくいいお話しを頂いたんですが、今回は辞退したいと思いまして・・・」
「え?!どうして?お前、これはチャンスだぞ?断るなんてもったいないぞ?」
「実は、私、博さんと結婚することになりまして・・・」
「え?!ホントか?いつの間に?」
「つい、先日プロポーズ受けたばかりです。それで、博さんは明日から神戸に転勤になって、その後、来年にはサウジアラビアに海外赴任する予定なんです」
「なぬ?サウジアラビア!?えらくまた急な話だな?それで、お前さんは一緒についていくわけか?」
「はい」
「そうかあ・・・。寿退社ってわけか・・・」
「・・・・・」
「いやー、びっくりしたなあ。博君からは何も聞いてなかったなあ」
「おそらく、博さんも急な話だったようで、編集長にお話しする時間はなかったんだと思います」
「そうか。いやあ、びっくりしたなあ。まあ、とにかくおめでとう!」
「いい、お話しだったのに申し訳ありません」
「まあ、しょうがないさ。結婚するんだ。しかし、こんなことならお前さんをあいつに会わせるんじゃなかったなあ・・・。さしずめ俺はお前たちの愛のキューピッドってわけか?いやエンジェルか?そんなのはどっちでもいいか・・・」
「いろいろとお世話になりました。それで、編集長、つきましては次の締切が済んだら退職したいと思います」
「そうか。そうだな。いやー、しかし残念だな。お前がいなくなるのはとても痛いなあ。勝木先生もお前がいなくなると、寂しがるだろうなあ。なんとか博君だけ単身赴任させて、お前は日本に残って仕事を続けることは無理か?」
勝木というのは中堅の作家で、長年に渡り週刊誌のコラムを書いてもらっている。圭子が勝木の担当になってからも数年経つ。(勝木先生に報告したら、何て言うだろう。びっくりした、ギョロ目が眼に浮かぶ)
「博さんも、やっぱり退職するのはもったいないからって、しばらく先に延ばそうかって言ってくれたんですけど、自分でもう退職するって決めましたから」
「うん」
「もうすぐ私も39歳になりますし・・・・。博さんとも話したんですけど、早く子供が欲しいなって・・・」
「かあー!そうか!分かった、分かった。子供でもなんでも、何人でもたくさん作って少子化に貢献してくれ!とにかくおめでとう!」
「そんなに何人も作れませんよ。年が年ですから・・・」
「わはは、そうか、そうか。ところでお前さんとは俺も親戚になるのか?」
結局、屋上で編集長は立て続けにタバコをまた3本も吸った。しきりに『残念だ』とこぼしていたが、気を取り直して『ちょっと出かける』と圭子を残して去って行った。おそらく社主に会って次の雑誌の編集長を誰にするか相談するのだろう。圭子が次の雑誌の編集長を引き受けるとばかり思っていたのだろう、茂木は少し慌てているように見えた。
今年最後の台風が過ぎ去った後は、一気に風が冷たくなって寒くなったような気がする。出版社の屋上から見る空は、秋の空だった。雲ひとつなく空がとても高かった。これからしばらくは忙しくなる。いったんは圭子のマンションを引き払って、博のマンションに引っ越しをしなければならない。博のマンションの方が広いし、圭子の部屋には大して大きな家具があるわけでもないし、ほとんどが処分出来るものばかりだから引っ越しも楽なはずだ。明日、博を見送った後は、さっそく引っ越しの手続きをしなければならない。
(あ、博さん、あのバイクどうするんだろう?)
圭子は博が持っている大型のバイクを思い出した。二人が知り合うきっかけとなったバイクである。“趣味男”というタイトルで、大人になってから自分の好きなことに熱中する男達を、連載で企画した記事である。読者には好評だったが、博の取材記事はボツになってしまった。あれから、まだ半年も経っていないのか。何だか付き合い始めてから、もう何年も経ったような気がするのは何故だろう。そういえば、博も似たようなことを言っていた。
『あなたには、ずっと前に逢ったことがあるような気がするんです。僕とお会いするのは初めてですよね?』
圭子が博のマンションの前の歩道で転んだとき、とっさに博の胸に抱きかかえられた。そのときに嗅いだ懐かしい匂い・・・。故郷にあるアイスクリーム工場の甘い匂い・・・。あれから、一気に恋に落ちてしまった。
友人の紗子に付き合って、婚活、コンカツと口癖のように合コンやお見合いパーティーに参加した。しまいには婚活バーまで・・・。圭子は婚活バーで知り合った男に言われた言葉を思い出した。
『あなたは、もっと真面目にに婚活したほうがいいと思います』
確かに婚活を重ねることで、自分の中でしっかりとしたものが見えてきたような気がする。婚活することで、自分も結婚したいという気持ちが強くなった。自分の気持ちに素直になれた。だから、好きだって思った瞬間を逃さなかった。チャンスをきちんとチャンスとして捉えることが出来たのだ。編集長じゃないけれど、あの博の胸に飛び込んだときに『エンジェルさん』が舞い降りたのかもしれない。
(エンジェルさん、こんにちは。か・・・。エンジェルさん、ありがとう!)
(あ、そうだ!紗子にも報告しなきゃ!)
圭子は大きく深呼吸をして伸びをすると、屋上のエレベータ―に向かって歩いていった。
秋風が吹く10月半ばのことである。
終わり
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九州・福岡の結婚相談所 Angel Rord
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住所:福岡市博多区博多駅東1丁目12番5号
博多大島ビル2階
TEL:092-292-3339 FAX:092-292-3336
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第7章 プロポーズ③
台風の接近と共に雨は一段と強くなっていった。雨に濡れた二人はマンションに戻って熱いシャワーを浴びたあとでベッドに潜りこんだ。博はお風呂を沸かそうか?と言ってくれたが圭子はシャワーでいいと答えた。バスタブにお湯を張る時間が待てなかった。博も同じ想いだったのか、二人は言葉もなくひたすら愛し合ったのだった。二人は、二頭のイルカが戯れるように、いつまでも肌を重ねた。そして泳ぎ疲れて少し眠った。圭子が目を覚ましたときに、博は腕枕をしながら圭子の髪を撫でていた。
「ごめんなさい。私、どれぐらい寝てた?」
「30分ぐらいだよ。まだ寝てたらいいのに・・・」
「なんだかすごく眠かったわ。疲れてるのね。私、鼾かいてなかった?」
「うん、けっこうすごかった。ゴーゴーいってた」
「え~!ホント?ごめんなさい!うるさかった?」
「はは!うそうそ!スースーと寝息ぐらいだったよ!」
「もう!ひどい!」
「ごめん、ごめん」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「さっき、圭子がこれで終わりねって言われたときに返事が出来なかったのは、君の仕事のことを考えたからだよ」
「仕事?」
「そう。君にだって仕事はあるし、そう簡単には辞められないだろう?ましてや君は今の仕事を生き生きとしてやっている。しかも、タイミングよく新しい雑誌の編集長の話だなんて・・・。それっていい話なんだろう?」
「・・・・・・」
「僕は考えたんだよ。自分の転勤のせいで、君の仕事まで辞めさせてしまっていいものかって。しかもすぐに海外にまで連れていくなんて・・・」
「・・・・・・」
「それに君の返事がNOだったらと思うと怖くて、なかなか切り出せなかった。ごめん。意気地がなくて・・・」
「ううん。私こそ冷静になれなくてごめんなさい。てっきりお別れの話だと思って、最後まで聞く勇気がなかった・・・」
「今度こそ、ちゃんと言うよ。圭子、僕と結婚してほしい。まだ付き合い始めて半年も経っていないけど、僕は君のことが好きだよ。君が傍にいない人生は考えられない。ずっと独りで生きてきて、独りきりの暮らしもそんなに苦ではなかった。むしろ独りの方が気が楽なことのほうが多かった。でも、あるカップルを見て、二人で支え合って生きていく人生もいいと思ったんだ。急に嫁さんがほしくなって、結婚相談所にも入会した。お見合いもしたよ・・・」
「お見合いしたの?!」
「うん、ダメだったけどね。はは。すぐにご紹介がまた来てたから、まだまだこれからお見合いは出来ていたかもしれない。でも、僕はすぐに君に出逢った。君に出逢ったときに、『あ、僕が一緒になる人はこの人だ!』って思ったんだ。」
「私も相談所には入会しなかったけど、合コンしたりコンカツバー行ったりいろいろやったわ。きっとあのままだと、紗子と同じ結婚相談所に入会していたかもしれない。あ、今日会った紗子と彼も結婚相談所で知り合ったんですって!紗子もなんだか幸せそうだったな」
「そうなんだ。婚活始めようと思って、結婚相談所に入会したらちょっと考え方が変わったような気がする。今まで、結婚も漠然としか考えていなかった。でも、君と出逢ったときに、このチャンスを逃しちゃだめだって。好きだっていう気持ちを正直に伝えようって。そう意味では高いお金払って、相談所に入会したのもいい経験になったかな」
「わかるわ。私もコンカツバーである男の人に言われたわ。『君は真剣に婚活していない!』って。あれから、私も何のために結婚するのかな?なんて難しいこといろいろ考えたんだけど、結局、好きな人と結婚すればいいって気づいたの。当たり前の話なんだけど。つまり、結婚相談所でも合コンでもコンカツバーでも、好きな人と出会ったら結婚すればいいのか!って思ったの。そう考えて吹っ切れたときに貴方に出逢ったの」
「・・・・・・・」
「覚えてる?そこのマンションの前の横断歩道で転んで、貴方に抱えてもらったときのこと?」
「もちろん。あのときはびっくりしたなあ。でも、あれから僕も何か意識しちゃった。思えばあれは一目ぼれだったのかもしれない」
「実は、私も貴男の胸に飛び込んだときに、『あ、私の結婚する人はこの人だ!』って思ったの・・・。貴男の胸の匂いが、とても懐かしいような匂いがしたわ」
「懐かしいって?どんな匂い?」
「そうねえ・・・。何ともいえないの。ただ、昔、嗅いだことがあるような、懐かしい匂いよ。しいていえば実家の町にあったアイスクリーム工場のような匂いかな・・・」
「え?!アイスクリーム工場?!それってどんな匂い?自分じゃわからないなあ。嫌な匂い?」
「ううん、ちっとも。むしろ私は好きな匂いよ」
「それならよかった」
「ハハハハハ」
「ふふふふふ」
「ねえ、博さんもう一度ちゃんと私の目を見て言ってくれる?」
「え?何を?」
「何をって、さっき言ってくれたこと・・・・プ・ロ・ポ・-・ズ・・・」
「・・・・・あ、わかった。・・・・コホン。じゃあ、いくよ。圭子、僕と結婚してくれるかい?必ず幸せにするって誓うよ」
「・・・・・・・・・・」
「あ、もちろん。すぐに、返事は無理だろうから、ゆっくり考えてくれていいよ。君にも仕事の都合もあるだろうし・・・。いや、あんまりゆっくり考えてもらっても困るんだけど・・・はは・・・」
「博さん!喜んで御受けします。こんな私でよかったら、どうぞ末永く、宜しくお願いします」
「ホント?!ホントに?」
「もちろんよ!」
「じゃあ、仕事はどうするの?」
「辞めるに決まってるじゃない。貴男と一緒に暮らすわ!」
「ホント!ヤッター!」
「うふふ!子どもみたい!」
「あはは!」
2013年、おそらくその年、最後の台風が近づく秋の夜のことである。
つづく
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第7章 プロポーズ②
それからタクシーに乗った博と圭子は、博のマンションに向かった。雨は本格的に降り始めていた。いつものように博がコーヒーを淹れてくれた。圭子はコーヒーカップを両手で温めながら、博が切り出す言葉を待っていた。
「実は転勤といっても神戸は一時的なもので、年内には海外の勤務になると思います」
「え?海外?」
「そう。サウジアラビア。新たにプラント工場を建設するので、技術責任者として行ってくれないかと・・・」
「サウジアラビア!?」
「おそらく最低でも2年はいることになるでしょうね・・・」
「・・・・・・」
転勤。しかも神戸は一時の間で、年内にはサウジアラビア。圭子は、予想もしない話の連続で驚くばかりだった。
「それで、神戸にはいつ発たれるの?」
「来週の火曜日ですね。15日かな・・・」
「そんな急に?!引っ越しはどうするの?」
「引っ越しはしません。神戸には社員寮があるんで、住むところの心配はしなくても大丈夫なんです」
「なんだか、本当に急な話なのね・・・」
「神戸でプロジェクトチームを結成して、ある程度準備が整ったら、12月初めにはサウジアラビアに行くことになりそうですね。来年のお正月はサウジで迎えることになるのか・・・。向こうにはおせちとかお雑煮とかあるのかなあ・・・。はあ・・・」
「・・・・・・」
(え?それで終わり?)
圭子は泣きたくなってきた。おせちとかお雑煮とかどうだっていいじゃない。私の事はどう考えているのよ。これで終わりってこと?転勤決まったから、さよならってこと?
「じゃあ、博さん、いい機会だからお別れしましょうか?実は私も新しい女性週刊誌の編集の仕事が回ってきそうなの。多分、しばらくは忙しくなるだろうし・・・」
「え?どういうこと?」
「博さんも神戸に行ったら、忙しいでしょうし、私も忙しくなるし、ちょうどいい機会だったと思えばいいんじゃない?」
「・・・・・・・」
「返事がないってことは、それで決まりってことよね?」
「・・・・・・・」
「じゃあ、私これで帰るわ。さよなら。短い間だったけどとても楽しかったわ」
「え?こんな時間から帰るの?もう遅いし泊まっていったら?」
「いや、これで失礼するわ。まだ、電車あるし・・・」
「・・・・・・・」
博が返事しないのを確かめた後に圭子はバッグを持って立ち上がった。今ならまだ地下鉄も十分にあるはずだ。
「あ、私のパジャマとか下着とか適当に処分しといて!」
それだけ言うと、圭子は振り返りもせずにドアを開けて飛び出した。エレベーターの前まで来て、外は雨が降っていたことを思い出した。
(ま、いいか。どうせタクシーに乗るし・・・)
エレベーターを降りてマンションの前に出たところで、圭子は再び立ち止まった。案の定、強い雨だ。この時間はタクシーはなかなかつかまらない。駅まで行けば、タクシーはいるかもしれないが、それまでに結構濡れてしまうだろう。そういえばこの近くにはコンビニもない。
(はあ・・・)
圭子は深くため息をつくと、意を決して走り出した。
(何なのよ!博のバカ!)
「圭子さあーん!!」
後ろから博が呼ぶ声がする。聞こえてはいるが、聞こえないふりをしてそのまま走る。
「圭子!」
あっという間に追いついた博が、圭子の腕を掴んだ。もう片方の手には、傘をぶらさげたまま。
「待ってくれ!まだ、話は終わっていない。君にも仕事があるから、簡単にはいかないだろうが、しばらくは僕のマンションに住んでいてくれないか?」
「どういうこと?」
「ちょっと待って、傘をさすから・・・」
ハアハアと息を吐きながら、博がまどろっこしそうに傘を開いた。
「ごめん、傘がこれしかなくて・・・・ハハハ・・はあ、はあ・・・」
「・・・・・・」
「僕が神戸に行っている間に、君も考えてくれないか?」
「何を?あなたが神戸に行ってる間にあのマンションの留守番をしてろってこと?」
「違う。そんなことはどうだっていい。僕と一緒にサウジアラビアに行ってくれないか?」
「え!・・・・」
「僕と結婚してほしい!神戸と東京ぐらいなら、単身でもいいけど、海外勤務で2年以上も君と離れることはできない。圭子と一緒に暮らしたいんだ!」
「?!・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「とりあえず、雨も強いしいったんマンションに戻ろう。お風呂沸かすよ・・・」
また、雨が一段と強くなった。
つづく
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第7章 プロポーズ①
「私、今、友人の紗子と会ってるの。いつか話したでしょ?女子高時代の友達・・・」
《「そうでしたか。ごめんなさい。もっと早く連絡すればよかったなあ。つい、携帯を鞄の中に入れたまま新幹線に乗ったものだから・・・」》
「とりあえずマンションに帰ってて。後で行きます」
《「わかりました。じゃあ、僕も夕食まだなんで適当に食べて帰りますから、ゆっくり来ていいですよ」》
電話の向こうの博の声は歩きながらだったのか、息がハアハアとはずんでいるようだ。ホームに流れるアナウンスの声も聞こえる。
「どうしたの?何かあったの?」
一部始終を見ていた紗子が声をかける。
「うん、彼がね、今から会いたいって。今、新幹線で品川に着いたんだって」
「え~!圭子、いつの間に彼が出来たの?」
そういえば紗子にはまだ博とのことを話してはいなかった。圭子は博との出会いから現在に至るまでをかいつまんで話した。紗子は、お酒を飲むのも忘れて目を丸くして聞いている。すると今まで黙っていた紗子の彼氏の平岡という男が口を開いた。
「じゃあ、いったんこちらにお呼びしたらどうです?お食事まだなんでしょう?僕たちは全然かまいませんよ」
「そうよ、圭子。そうしなさいよ。一緒に食事しましょうよ。今からお呼びしなさいよ。品川からならすぐだわ」
平岡は意外にもにこにことした人の良さそうな男だけかと思ったら、話すとてきぱきとした物言いをする男だった。確かにしっかりしたところがないと、この紗子の手綱を握ることは無理かもしれない。
もう一度、博に電話をするとまだ品川駅構内にいたらしく、それならば今からこっちに来るという。よっぽど早く圭子に会って何か伝えたいことがあるのかもしれない。いずれにしろ紗子たちのいる前で、博と話をするわけにはいかない。博が来たら紹介だけして失礼すればいいと思って、博も店に呼ぶことにした。
「せっかく二人で食事してるのに悪いわ。ご紹介だけしたら失礼します」
「圭子、何、言ってんのよ!そんな遠慮しないでよ。私もどんな人なのかじっくり見てみたいわ」
真面目な顔をしてはいるが、おそらくこの女はただの興味本位だろう。しばらく、雑談を交わしているとほどなくして博がやって来た。品川からならタクシーで来てもすぐだ。
「失礼します。冨澤と言います」
息を切らして駆けつけたような感じだ。額の汗をハンカチで拭っている。4~5日逢わなかっただけなのに、なんだか久しぶりに見たような気がする。博の顔が眩しかった。
(話したいことってなんだろう?)
圭子は博の言った言葉だけが気になってしかたなかった。
「圭子、素敵な人じゃない!」
紗子が耳元でささやく。
「こんばんは。どうも初めまして。圭子の友達で小島紗子と言います。こちら、平岡さんです」
「あ、どうも。平岡です。よろしく!」
「こちらこそ、冨澤博といいます。いつも圭子がお世話になっております」
「わ!圭子だって!なんだかもうご主人みたい!」
「あ、いえ。そんな・・・」博がしどろもどろになる。
「ちょっと!紗子、やめなさいよ」
あきらかに冨澤を見てから紗子の様子がおかしい。変に浮かれている。やっぱり博をここに呼ぶんじゃなかった。適当なところで帰ろう。
「せっかくですから、乾杯しませんか?」平岡が切り出した。
「そう、そう!カンパイしましょ!冨澤さんもけっこう飲めるんでしょ?」紗子が空のグラスを差し出した。
「いや、僕は酒はあんまり・・・」
「博さんは、お酒あんまり飲めないから、ウーロン茶にしてあげて」
「あら、そうなの?」
紗子はにやにやして圭子の顔色を窺っている。
「なによ、にやにやして」
「いいなあ~と思って」
「なにが?」
「圭子に博さんかあ・・・」
「・・・・・」
「羨ましいなあ・・・」
「何言ってるのよ!自分だって結婚するんでしょ?」
「あはは、そうか!その報告で圭子を呼んだんだっけ。アハハハハ」紗子が大口を開けて笑う。
まったく、いい加減な女だ。博を呼ぶんじゃなかった。博に紗子のような軽薄な友人がいることを知られたことが恥ずかしかった。とりあえずカンパイはしたものの、『私たち今日はここで失礼するわ』と言って、博と店を出た。
紗子は、もう少し一緒にいてほしいような顔つきをして、平岡は相変わらず黙ってちびちびと酒を飲んでいたが。
外に出たらポツリポツリと雨が降り出した。博はビジネスバッグの中から折り畳み傘を取り出した。
「やっぱり雨になったか・・・」
「夜は雨になるって言ってたわね」
そういえば、大型の台風が接近していて秋雨前線が活発になっているとニュースでやっていた。
『少し歩きましょう』そう言うと博は圭子の肩を抱いて傘の中に招き入れた。博のいつもの匂いがする。
「ごめんなさい。今日は全然連絡が出来なくて・・・。急遽、神戸の支社に呼び出されてしまって・・・」
「心配したわ・・・。何かあったの?」
「ええ。まあ・・・。ところでお母さんはもう大丈夫?」
「うん。思ったより大したことなかったみたい。それより博さん、お話ししたいことってなあに?」
「実は、僕、急に転勤になったんです。引き継ぎが済んだらすぐにでも神戸に行かなければなりません」
「?!・・・・・」
「メールしようと思ったんですが、口で言った方が早いと思って、あえてメールしなかったんです。ごめんなさい」
「・・・・・・・・」
雨音が傘の中で大きくなったような気がした。
つづく
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