エンジェルさん、こんにちは。 婚活ブログ小説 連載34回目 作エンジェルおじさん

《前回までのあらすじ・・・母親の入院で久にしぶり帰った圭子は、やつれた母の変わりように驚くのだった》

第6章  赤い糸の伝説⑤

結局、その後母は変な事を言うわけでもなくベッドでしばらく目をつぶっていた。父が検査の結果を聞いたところ特に問題はなく、予定よりも早く退院する運びとなった。家までは車に乗る距離でもないが、多少ふらつく恐れもあるというので大事を取って、車椅子で自宅まで帰ることにしたのである。父が退院の手続きをすませ圭子が母の荷物を持って病院を出る。母の乗った車椅子は病院の看護師が付き添って押してくれた。家に帰ってのは13時を回ったところだった。

「あ~やっぱり家が一番いいねえ。なんだか寝てばっかりいて余計疲れちゃったよ」

母は家に着くなりソファで横になりほっとしたような表情を見せた。

「そりゃあそうよ。何も悪くなくても一日病院にいるだけでどっか本当に悪くなりそうだわ」

お茶をすすりながら圭子は笑って答えた。

「ところでお前たち腹は減ってないか?」

「あら、お父さん、何も食べてなかったんですか?朝ご飯は?」

「いや、朝は昨日買っておいたパンを食べた。しかしパンだけじゃやっぱり腹にたまらんよ」

「あらあら、じゃあご飯焚きましょうかねえ」

そそくさと母が起き上がろうとするのを見て圭子は思わず言った。

「もう、お母さん!退院したばっかりなんだから、じっとしてなさいよ。お父さんもお昼なんか何でもいいでしょ!」

「ああ、すまん、すまん。じゃあ、せっかくだから寿司でも取ろうか?」

父は典型的な昔気質な男で炊事、洗濯、掃除何一つ出来ない。台所に立とうとすらしない。これで母にもしものことがあったら父は一人でいったいどうなるのかと思う。母のいないこの2~3日は、近くのコンビニやスーパーで弁当やパンなどを買って食べていたようだ。

圭子は近所の馴染みの寿司屋に出前を頼んだ。

「あ、菊寿司さん?出前お願いします。兵頭です。3丁目の・・。そう、嶋田病院の近くの・・・。はい。上にぎり3人前お願いします。あ、はい、ゆっくりいいですよ・・・・『ちょっと混み合ってて30分ぐらい時間かかるって』・・・・はい、お願いします」

電話を切って5分もしないうちに玄関のチャイムが鳴った。

(え?!こんなに早く来たの?)

圭子が玄関に出てみると、すでにドアを開けて入って来たのは、親戚の大叔母だった。そう、いつも圭子に縁談を持ってくる父の姉の“美津子伯母さん”だ。70歳を超えた今も自宅で茶道や生け花などを教えている。趣味でやっている縁談の世話もまとめた結婚は100組を超えるというからすさまじい。圭子は、この大叔母が苦手だった。いつも、矍鑠としていて隙がない。女たるもの慎ましくあるべきだ、という持論そのままに生きてきた、典型的な戦前の昭和の女である。もちろん苦手なのは圭子だけでなく母も父も同じである。

「あら、圭子さん、帰って来てたのね。ちょうどよかったわ。あなたにもお話があるの。それで、史江さんは退院したのね?お邪魔するわよ」

言うなり伯母の美津子はつかつかと家に上がりこんでくる。着物を着て足袋を履いているので、音も立てず滑るように動くのが不気味なほどだ。

「あ、姉さん、いらっしゃったんですか。後で電話をしようと思ってたんですが・・・」

あわてて父も飛び出して来る。

「病院に行ったら、たった今退院したというからそのままこっちに来たんですよ。それで史江さんの具合はもういいの?」

「まあ、なんとか。検査の結果は異状なしとのことです。血圧は高いようですが・・・」

「もう、弘毅さんも家庭菜園ばっかりやって、史江さんに無理させてはだめですよ。手伝わさせてばかりいるんでしょ?」

「いやあ、最近はもう野菜は作ってないのですが・・・」

苦笑いする父を尻目にさっさと母に近寄る。

「史江さん、大変だったわね?お加減はどう?あなたももうあまり無理をせずに用心なさらないといけませんよ」

「お義姉さん、どうもご心配かけてすみません」

母も体を起こしてかしこまっている。家族全員がこの大叔母が来ると固くなるのだ。

(おい、圭子。寿司を追加しておけ!)父が小声で私を小突く。

「あー、私は何も要りませんよ。すぐにおいとましますからね。この後、今日はお茶会がありますからね」

身体の向きを変えると伯母は今度は圭子に向かってこう言った。

「圭子さん、お母様に聞いてらっしゃると思いますが、いい縁談のお話がありますのよ。あなた一度お会いしなさい。しばらくこっちにいるんでしょ?」

「いや、母もそんなに大したことないようなので、明日には帰ろうかと・・・」

「何をおっしゃるの?あなた、いい機会だからしばらくこっちにいなさい。今回はいい縁談ですよ。前の学校の先生よりももっといいわよ」

伯母は風呂敷を広げて、巨峰の箱とお見合い用のアルバム写真を取り出した。

「あ、これつまらないものだけど・・・」

「どうもすみません。有難うございます」

圭子は巨峰を受け取ると、台所に立った。このまま伯母の相手をするのが苦痛でたまらない。

「圭子さん、とにかく写真だけでも見てごらんなさい?東大出てらっしゃるんですよ。銀行の課長さんなんですって!」

「いやあ、伯母さん悪いけど私、銀行員はちょっと・・・・」

「何を言ってるのよ。男の人は真面目にお堅い仕事をされているのが一番よ!ほら、御覧なさい。キリッとしたお顔立ちよ」

伯母がアルバムをめくってみせると、そこには黒縁のメガネをかけてにこりともしていない白い顔が見えた。全体的に白く光って見えるのは頭の毛もかなり薄くなっているからだろう。典型的な銀行員の顔だ。この人の職業を当てなさいというクイズを出したら十中八九、殆どの人が正解を言い当てるのではないだろうか。圭子はなんだかおかしくなってきた。

「笑いごとじゃないですよ、圭子さん。お父さんもお母さんもあなたのことが心配なんですよ。早く結婚して孫の顔でも見せてあげなさい」

「まあ、姉さん、圭子も今朝帰って来たばかりですから、写真は後程ゆっくり見るということで・・・。あ、お寿司の出前取ったんですよ。一緒に食べて行きませんか?」

「お寿司はいりません。弘毅さん、そうやって一人娘だからといっていつまでも甘やかすと、大変なことになりますよ。女は結婚して家庭を守るのが一番の幸せでもあり努めです。とにかく、また明日にでも来ますから、しっかり考えておくんですよ」

言うだけ言うと伯母は風呂敷を畳んで立ち上がろうとした。

 

CF5

「伯母さん、せっかくだけどお見合いはもうお断りして・・・・」

「・・・・・・・・・・」

「お前、伯母さんがせっかく持って来てくれたいい話じゃないか。会うだけでも会ってみたらどうだい?」

母も申し訳なさそうに口を出した。

「お母さんも、お父さんも聞いて。私、今お付き合いしている人がいるの。まだプロポーズはされていないけど、お互いに結婚を考えてるの。今度、紹介しようと思ってるわ。だからもう縁談の話はこれきりにして!」

「?!!・・・・・」

「?!!・・・・・」

「?!!・・・・・」

「本当かい?!」

「いつからお付き合いしてるの?」

「どこに住んでらっしゃる方なの?」

沈黙の後に一斉にみんなが口を開く。

「こんちは~!菊寿司でえす!お待たせしましたあ!」

玄関から威勢のいい声が響いた。

つづく

 

 

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