第7章 プロポーズ②
それからタクシーに乗った博と圭子は、博のマンションに向かった。雨は本格的に降り始めていた。いつものように博がコーヒーを淹れてくれた。圭子はコーヒーカップを両手で温めながら、博が切り出す言葉を待っていた。
「実は転勤といっても神戸は一時的なもので、年内には海外の勤務になると思います」
「え?海外?」
「そう。サウジアラビア。新たにプラント工場を建設するので、技術責任者として行ってくれないかと・・・」
「サウジアラビア!?」
「おそらく最低でも2年はいることになるでしょうね・・・」
「・・・・・・」
転勤。しかも神戸は一時の間で、年内にはサウジアラビア。圭子は、予想もしない話の連続で驚くばかりだった。
「それで、神戸にはいつ発たれるの?」
「来週の火曜日ですね。15日かな・・・」
「そんな急に?!引っ越しはどうするの?」
「引っ越しはしません。神戸には社員寮があるんで、住むところの心配はしなくても大丈夫なんです」
「なんだか、本当に急な話なのね・・・」
「神戸でプロジェクトチームを結成して、ある程度準備が整ったら、12月初めにはサウジアラビアに行くことになりそうですね。来年のお正月はサウジで迎えることになるのか・・・。向こうにはおせちとかお雑煮とかあるのかなあ・・・。はあ・・・」
「・・・・・・」
(え?それで終わり?)
圭子は泣きたくなってきた。おせちとかお雑煮とかどうだっていいじゃない。私の事はどう考えているのよ。これで終わりってこと?転勤決まったから、さよならってこと?
「じゃあ、博さん、いい機会だからお別れしましょうか?実は私も新しい女性週刊誌の編集の仕事が回ってきそうなの。多分、しばらくは忙しくなるだろうし・・・」
「え?どういうこと?」
「博さんも神戸に行ったら、忙しいでしょうし、私も忙しくなるし、ちょうどいい機会だったと思えばいいんじゃない?」
「・・・・・・・」
「返事がないってことは、それで決まりってことよね?」
「・・・・・・・」
「じゃあ、私これで帰るわ。さよなら。短い間だったけどとても楽しかったわ」
「え?こんな時間から帰るの?もう遅いし泊まっていったら?」
「いや、これで失礼するわ。まだ、電車あるし・・・」
「・・・・・・・」
博が返事しないのを確かめた後に圭子はバッグを持って立ち上がった。今ならまだ地下鉄も十分にあるはずだ。
「あ、私のパジャマとか下着とか適当に処分しといて!」
それだけ言うと、圭子は振り返りもせずにドアを開けて飛び出した。エレベーターの前まで来て、外は雨が降っていたことを思い出した。
(ま、いいか。どうせタクシーに乗るし・・・)
エレベーターを降りてマンションの前に出たところで、圭子は再び立ち止まった。案の定、強い雨だ。この時間はタクシーはなかなかつかまらない。駅まで行けば、タクシーはいるかもしれないが、それまでに結構濡れてしまうだろう。そういえばこの近くにはコンビニもない。
(はあ・・・)
圭子は深くため息をつくと、意を決して走り出した。
(何なのよ!博のバカ!)
「圭子さあーん!!」
後ろから博が呼ぶ声がする。聞こえてはいるが、聞こえないふりをしてそのまま走る。
「圭子!」
あっという間に追いついた博が、圭子の腕を掴んだ。もう片方の手には、傘をぶらさげたまま。
「待ってくれ!まだ、話は終わっていない。君にも仕事があるから、簡単にはいかないだろうが、しばらくは僕のマンションに住んでいてくれないか?」
「どういうこと?」
「ちょっと待って、傘をさすから・・・」
ハアハアと息を吐きながら、博がまどろっこしそうに傘を開いた。
「ごめん、傘がこれしかなくて・・・・ハハハ・・はあ、はあ・・・」
「・・・・・・」
「僕が神戸に行っている間に、君も考えてくれないか?」
「何を?あなたが神戸に行ってる間にあのマンションの留守番をしてろってこと?」
「違う。そんなことはどうだっていい。僕と一緒にサウジアラビアに行ってくれないか?」
「え!・・・・」
「僕と結婚してほしい!神戸と東京ぐらいなら、単身でもいいけど、海外勤務で2年以上も君と離れることはできない。圭子と一緒に暮らしたいんだ!」
「?!・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「とりあえず、雨も強いしいったんマンションに戻ろう。お風呂沸かすよ・・・」
また、雨が一段と強くなった。
つづく
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
九州・福岡の結婚相談所 Angel Rord
http://www.angelroad-co.com/
住所:福岡市博多区博多駅東1丁目12番5号
博多大島ビル2階
TEL:092-292-3339 FAX:092-292-3336
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
カテゴリー
アーカイブ