エンジェルさん、こんにちは。エンジェルおじさんの婚活ブログ小説 連載7回目

《前回までのあらすじ・・・酔っぱらった会社の部下の由美を迎えに、勝木が待つレストランへ向かった圭子は、結婚について問われて・・・。》

「あのなあ、よく聞けよ。結婚するのはお互いに愛し合って一緒に居たいと思うからだろ。好きで、好きでたまらない人と一緒にいたら抱きしめたいと思うだろ?そして肌を重ねたい、触りたい、キスしたい、お互いに気持ち良くなりたいって思うだろ。好きな人が気持ちいい顔をしていたら嬉しくなるだろ?もっともっと喜ばしてやりたいって思うだろ。じゃあ手っ取り早い喜ばせ方はあれしかない。結婚したらいつでも好きな時に抱き合える・・・。だから結婚するんだよ。」

「先生!そんなの暴論です!おかしいです!変です!じゃあ、結婚するのは“それだけ”の為だけということですか!」

ついつい圭子は声を張り上げていた。気が付けばあっという間にワインを4杯も立て続けに飲んでいる。

「コラ!ちょっと声を抑えろ!お前は学級委員長か!ったく!」

「もちろん、それだけの為に人は結婚するんじゃない。そんなことは当たり前だ。結婚というのは、お互いに愛し合っていたら片時も離れずに、ずっと傍にいれる一番の手段だからだ。傍にいたら相手を触ることが出来る。触ることで人は安心するんだな。これは人だけじゃない、犬でも猫でもそうだろ?撫でてやってる時は嬉しそうな顔してるよ。人間は目の前にいる人を触って確かめることで、相手も自分も生きていることが実感出来る。相手の胸の鼓動や、体温や汗を感じることでますます人は生きていると強く思う。それをいつでも体感するためには一緒に暮さねばならない。いつでもすぐに触れる態勢を取っておかねばならんからな。だから結婚するのさ。・・・・・まあ、ちょこちょこ触っているうちにムラムラしてくるから結局はやっちまうんだがな。ワハハ!」

「もう、何ですかそれ!変な理論ですね。」

いつもこれだ。真剣に聞こうと思うと、茶化されてしまう。最後はわかったような、わからないような話で煙にまかれている。おまけに、勝木は脚本を書いているだけあって、役者さながらにおしゃべりがうまい。抑揚をつけたり、間を取ったり、ギョロ目で見つめたり。いつの間にか話に引き込まれてしまう。

「確かに先生の言うことも一理あるような気もしますね。」

少し考えてから圭子は口を開いた。いつのまにか勝木の目から逃げられない自分がそこにいた。(すこし酔ってるのかしら。)

「そうだろう?だがな、俺は最近になってこれは間違っていることに気が付いた。」

「え?どういうことですか?」

「これは結婚してないお前さんに言うのは気が引けるが・・・。まあいいか。実はあんなに毎日触って生きていることを確かめたかった女房が、1年もしないうちに触りたくなくなったんだよ!もちろん女房も触ってこなくなったがな!その代り違う女の子を触りたくなっちゃったんだよ。だから、いろんな女と結婚しなきゃならなくなった!ワッハッハ!」

「・・・・・はあ~?!」

真面目に聞いていた自分がまた情けなくなる。この嬉しそうに話している姿は、茂木編集長とちっとも変らない。まだ見た目は勝木の方がましな方だが、中年のオヤジタレントで“日本一いいかげんな男”としてTVに出ているコメディアンと重なるときがある。笑い方もギョロ目のところもそっくりだ。

遥か昔に一度、勝木が結婚したというのは嘘ではないのだろう。勝木が結婚していたということを改めて想像したら圭子はまたおかしくなってきた。いったいどんな奥さんだったのだろう・・・。当時はまだ本が売れなくてヒモのような生活をしていたと編集長に聞いたことがある。いつ別れたのかは知らないが、勝木の気ままな独身生活はもうかなり長くなるはずだ。

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(結婚は何のためにするんだ?って偉そうに!よく考えたら先生だって結婚に失敗してるんじゃない!)

5杯目のワイングラスを飲み干したところで、圭子は席を立った。前にも紗子との酒のエピソードでもあったように、圭子は酒が強い。父も母も全くの下戸だというのに。亡くなった母方の祖父がかなりの酒豪だったらしい。「お前はお酒が強いのと頑固なところは、おじいちゃんの血を引いてるのよ」と常々、母が言っていたのを思い出した。

「じゃあ、先生。そろそろ失礼します。どうも御馳走様でした。原稿はちゃんと私が責任を持ってお預かりします。」

「おう!またな!俺は一段落したんで、明日からしばらくタイに行って来るよ。お土産買ってきてやるから、楽しみにしてろよ!」

「はい、よろしくお願いします。」

どうせタイには誰か女でも連れて行くのだろうが、そこで掘り下げるとまた話が長くなりそうなので切り上げることにした。圭子は外に出てタクシーを拾おうと考えたが、またさっきのような無愛想な運転手だったら嫌だなあとふと思った。

「おい、この娘もちゃんと連れて帰れよ!じゃないと俺が家に連れてくぞ!ハハハ。」

「どうぞ、連れてってもらってもかまいません。お好きなようにして下さい。」

「コラコラ、冗談じゃないぞ。俺はこんなションベン臭いガキは相手にしないんだ。女は40過ぎてからが一番味が出てくるんだよ。そう、お前さんぐらいがちょうど食べごろなんだ。ハハハ。」

「何べんも言いますが私はまだ38です。念のため。」(これでこのセリフは今日3回目だ。)

やっぱり今日は少し酔いが回ってきたのかもしれない。ふらつきながらも半分寝ている由美を抱きかかえた。

「松本さん!しっかりしなさい!起きなさい!帰るわよ。」

「う、う~ん。」

由美を引きずるようにして店の外へ連れ出し、タクシーへ放り込む。電話して会社の前で待たせていた営業部の後輩の男に、由美と原稿を預けた。この男はいつか給湯室で私の悪口を言いながら由美を慰めていたやつだ。ちょうどいい。また、後で何か陰口を叩こうがかまうものか。

「お疲れさん、まず勝木先生の原稿を編集長のところに届けて!それから松本さんの酔いを覚まして、ちゃんと家まで送ってあげてね!じゃ、さよなら!」

「え!兵頭さん!ちょっと待って!」

後ろで男が叫んでいるのが見えたが、そのままタクシーを走らせた。(今日はもう疲れたから、このままタクシーで帰ろう。)運転手に行先だけ告げると、圭子は目をつむった。今度こそマンションに帰って、一人で冷えたビールを飲むんだ。そういえばハイボールやらワインばっかりでろくなものを食べていない。冷奴に冷やしトマト、マヨネーズを付けて食べなきゃ!まあ、冷奴もトマトもそのまま皿に盛るだけだから、ろくなものに変わりはないか。

「ふう。」

圭子は自分でも分かるほどお酒の匂いの溜息をついた。(本当に今日は、疲れたわ・・・。)

「お客さん、飲み会でしたか?いい匂いさせますねえ!やっぱこの季節はビールですか?」

「・・・・・そうね。」

「先に降ろしたお嬢さんもけっこう飲んでましたなあ!」

「・・・・・まあね。」

こんな時に限って、運転手がうるさくしゃべりかけてくる。圭子はええ、とかまあとか適当に頷いて寝たふりをすることに決めた。そういえば、さっきの無愛想な運転手も逆に何かあったのかもしれない。私を乗せる前に、乗車した客がとても横着な客でしかもワンメーターぐらいの距離だったりして。しかも、そんな客がずっと続いていたら・・・。本当はこの運転手さんみたいに、普段はよくしゃべる人なのかも。人間ってちょっとしたことで、ハイになったりブルーになったりするものだから・・・。これも、勝木先生が言ってたことだわ。そんなことをつらつら考えながらも、今度だけは念のためにタクシー会社と運転手の名前を憶えておこうと薄目で確かめるのだった。

(東光タクシー、前田 明さんね。マエダ アキラ・・・。マエダアキラか・・・。マエダアキラって確かプロレスラーがいたわよね。あれは字が違ったっけ。前田日明って書くんじゃなかったっけ?なんで日明って書いてアキラって読むのかしら。・・・・そういえば前田日明ってもう引退したのかしら・・・・・・。)

「・・・・・・・・・・・・。」

「お客さん!着きましたよ!」

「・・・・・・・・・・・・。」

「お客さん!起きて!」

「あ、ハイ!」

慌てて圭子は飛び起きた。まだまだ、圭子の夜は終わらないのだった。

次回 「冨澤 博の場合」 へつづく

 

 

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