エンジェルさん、こんにちは。 婚活小説 連載8回目 作 エンジェルおじさん

第二章 冨澤 博の場合

犬吠埼に着いたのはお昼を少し回った頃だった。梅雨の間の久しぶりの晴れ間にしては車が少なかった。博が住んでいる品川からは2時間半で来た計算になる。土曜日のこの時間ということもあるのだろうが、犬吠埼の灯台には観光客もまばらで、何組かのカップルと若い家族連れがいるだけだった。博は灯台脇の駐車場にバイクを停めて、缶コーヒーを飲みながら改めて自分のバイクを眺めた。マフラーが銀色の眩い光を放っている。ハーレーダビッドソン、FLSTFファットボーイ。重厚感たっぷりの車体はハーレーの中のハーレーと言われるゆえんに相応しい。そう、ターミネーターⅡでアーノルド・シュワルッエネッガーが乗っていたバイクである。博はハーレーはこれで2台目だが、歴代のバイクの中ではこの愛馬が一番気に入っている。

博はどちらかといえば家にいるよりも出かけることの方が多い。暇さえあれば最近買った一眼レフのデジカメ片手に、バイクに乗って出かけている。しかしせっかく撮った写真も誰かに見せるわけでもなく、ブログやfacebookに載せるわけでもない。一応自宅のパソコンのフォルダには保存しているものの、自分ですら写真を見ることもない。ましてや人物が映っていない素人の風景写真など誰が好き好んで見るものか。最近は、写真の編集作業も面倒になりタイトルも付けずに、日付だけが記録された写真がいたずらに溜まっている。

せめてセルフタイマーで自分も一緒に撮るとか、誰かにシャッターを押してもらえばいいものを、博にはそれが出来なかった。一言で言えば恥ずかしいのである。「こんな場所に一人で来て一人でいつも写真撮るのかしら?」なんて思われたくないのである。セルフタイマーでピースサインなんか出してポーズをつけてるのを、誰かに見られたら死んでしまいたいぐらい恥ずかしくなるのだ。だったら最初からそんな本格的な一眼レフカメラなんか持って来なければいいのに・・・。コンパクトカメラかスマホで撮影すればいいのにと思うのだが・・・。そこだけは違うのだ。変なこだわりがあるのだ。ケータイで撮るような写真は芸術ではないと思ってしまうのだ。芸術作品を撮るような腕があるわけでもないのに・・・。

しかし、誰も見る人がいなくても、編集作業が面倒くさくなっても、毎回、毎回、性懲りもなく博は風景写真を撮り続けている。この頃は出来るだけ、地名や名前がある建物も、一緒に撮るようにしてせめてどこに行ったかは、分かるようにだけは工夫している。いつだったかどうしても山肌を赤く染める夕焼けの写真が撮りたくなり二週続けてどこかの山に行ったことがある。いや、どこかというのは分かっている。群馬か長野だ。いいベストショットが撮れたのだが、それが群馬で撮ったのか、長野で撮ったのか分からず悲しくなってしまった。今もってどっちの写真なのか分からない。もう一度両方の場所に行くしかない。行ってもたくさん撮りすぎたので、どの場所か分からないのだが・・・。

冨澤 博、このエピソードだけ聞くと、ちょっとズッコケたいかにも冴えない独り者の男のようだが、顔だけ見ると彫りが深くなかなか甘いマスクをしている。もちろん、そんな自惚れたことを平気で思っているわけではない。来月で41になるが、今まで生きてきて何度も「いい顔している」とか「俳優のY.Tに似ている」とか言われたことがあるからだ。まあ、確かに自分でもそんなに悪くはないとは思っているのだけれど・・・。国立の工科大を卒業してずっとエンジニアの仕事をしている。海外にも支社がある大手の企業である。当然、給料もいい。ハーレーを新車で2台も買い替えるぐらいどうってことないのである。住んでいるのも品川のデザイナーズマンションだし、天気のいい日にはスカイツリーも見えるのだ。条件だけ見れば申し分ないのだ。そう、いないのは彼女だけである。もちろん結婚を誓い合った幼馴染の婚約者がいるなんて話も聞いたことがないのである。

(今日は灯台をメインに写真を撮ろう。なんかいい絵が撮れそうな気がする。)

のん気である。プロのカメラマンにでもなったつもりなんである。嫁さんがほしいなんてちっとも考えていないのだ。4歳年下の弟は25歳で結婚して今は子供が3人もいる。嫁はJAの職場で知り合った地元の女の子だ。実家の両親と嫁と子供とみんなで仲良く暮らしている。典型的な田舎の風景だ。博が実家に帰っても居場所がない。いや、居場所はあっても居心地が悪い。もちろん最近はあまり実家に帰ることもないが・・・。さすがに正月だけは顔を出すのだが、普段は会わない親戚までやって来るので余計に居心地は悪い。「博君も、いくつになったんだっげが?そろそろ孫の顔でも見せで親父ば安心さしちゃれや。」って必ず言われるに決まっているのだ。その話が出る度に酒が飲めない博は、いつも無理をして日本酒を飲んで寝たふりをすることになるのだ。実際に具合が悪くなって本当に寝てしまうのだが・・・。

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博は房総半島から見る海が一番好きだった。

(日本海は女の海で、太平洋は男の海だなあ。)

などと、とても口に出して言うのが恥ずかしいような言葉を平気で心の中でつぶやいているのだ。

つづく

 

 

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