エンジェルさん、こんにちは。 婚活連載小説⑩ 作 エンジェルおじさん

《前回までのあらすじ・・・灯台の写真を撮りにツーリングに出かけた博は、そこで見かけたカップルが落としていった鍵を拾ったのだが・・・。》

「あの、もしかして鍵を落としてませんか?これ?」

博は間違いないと思い先に声をかけ、手に持っていた鍵をブラブラさせた。

「あ!ありがとうございます!どこにありました?」

「上のベンチのとこにありましたよ。」

「やっぱり!駐車場に着いて車に乗ろうと思ったら、鍵がなくて・・・。」

あごひげの男はほっとした顔で博から鍵を受け取った。白い歯がこぼれた。

博は、自分も駐車場に行くことだし、連れだって歩き出した。

「ありがとうございました。埼玉から来た山下と言います。お名前お聞きしてもいいですか?」

「冨澤と言います。」

見た目よりも、声の調子が柔らかくて人の良さそうな感じがする男だ。

「もしかしてハーレーで来られた方ですか?」

「え、・・・・?」

「いや、ブーツ履いてらっしゃるから・・・。」

確かに博の恰好は誰が見ても分かるライダーの姿だ。黒い革のライダーパンツにブーツ、ジャケットは少し派手だがハーレーダビッドソンとロゴが入った革ジャンを着ている。駐車場に着くと黒いワンボックスカーの前で女が立って手を振っていた。山下という男は、博にあきらかに自分の鍵だとアピールするかのように、手を伸ばしてリモコンで車のロックを解除した。ピッという音がしてドアが開いた。

「みーちゃん、この方が鍵を拾ってくれたんだよ。」

(?!やっぱり、みーちゃんって言うのかよ・・・。)

「どうも、ありがとうございました!」

みーちゃんと呼ばれた女は、よく見たら若かった。まだ20代なのかもしれない。小柄でショートカット、幼い感じがする顔立ちをしていた。

「じゃあ、気を付けて。」

それだけ言うと博は自分のバイクがある方向へ歩き出した。鍵を拾ってあげただけなのに、博はなんとなくいい気分になっていた。また、二人とも笑顔で好感の持てる人間だったことも素直に嬉しかった。

(みーちゃんかあ・・・。男はそんなに俺と変わらないはずなのに、女の方は若かったなあ・・・。彼女だろうなあ。いや、もう結婚してるのかなあ。)

実は、ああいうタイプの女の子は博が最も好きなタイプなのだった。ちょっと天然ぽいが、あけすけに明るい。お酒のCMに出ている女優に似ている。最近、結婚したとTVのワイドショーでやっていた。博はなんだかやるせないような気持ちになったのだが、朝から何も食べておらず腹が空いていたことに気づいた。

(せっかくここまで来たからには、新鮮な魚を食べよう。名物の海鮮丼にするか・・・。)

こんな調子なんである。お前も早く結婚して美味しい物作ってもらえよ!とツッコミたくなるところだ。博がカメラをハーレーのキャリーバッグに直して、シートの上でガイドブックを広げてその海鮮丼が有名な和風レストランの場所を確認していたところ、後ろからさっきの男の声がした。

「かっこいいですねえ。ファットボーイですね。何年式のモデルですか?」

そう言うと、山下はよく冷えた微糖タイプの缶コーヒーを差し出した。

「あ、ありがとう。これは、2010年モデル。ツインカム96B、ロータイプです。」

「かっこいいですね。バイクはやっぱりハーレーですよねえ。俺も“パパサン”に乗ってましたよ。」

通称パパサン。ハーレーダビッドソン・スポーツスターXL883L。排気量が883ccなので数字をもじってパパサン。ハーレーの中でもスポーツロードスタータイプに区分けされるこのタイプは、軽量コンパクトで取り回しが楽で女性ライダーにも人気が高いバイクだ。バイクをかじったことがある者なら“パパサン”だけですぐ分かる。博はあまり好みのバイクではないのだが・・・。

「パパサンかあ。音が独特だよね。今日はバイクじゃなかったの?」

「いやあ、もう手放しちゃって・・・。今は車だけです。」

「そうですか・・・。」

「・・・・・・・・・・・・・。」

バイクに乗っていると、こういうことはよくある。特に中年のオヤジが高速のSAあたりで休憩を取っていると声をかけてくる。昔、乗り回していた頃を思い出しながら、ノスタルジックな気分に浸りたいのだろう。

「音、聞かせてもらっていいですか?」

「あ、いいですよ。」

博はガイドブックをウエストポーチに押し込みながら、キーをイグニッションに差し込みセルのスイッチを入れた。

ドド、ドド、ドドドド・・・・・。一発でエンジンが始動し、小気味よい重低音が響く。2007年以降のタイプはエンジンの変更に伴い、かなり静かになったのだが、それでもこのサウンドはハーレー独特のものだ。生き物の鼓動のような音はまさに鉄で出来た馬だ。

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「いいですねえ、ハーレーの音は・・・。また、バイク欲しくなったなあ。」

「もう、乗らないんですか?」

「いやあ、それが、さっきいた女はカミさんなんですけど、もうすぐ子供が生まれるんですよ。もう俺も40超えてるし・・・いやあ、カミさんは俺よりもずいぶん若いんですけどね。まあ、これから金もかかるし、そんなに乗る暇がなくなったというか・・・。カミさんにもあぶないからもうバイクは卒業してなんて言われちゃって・・・。ハハ・・・。確かに守らなきゃいけないものが増えてきたんで、しょうがないんですけどね。これからは“パパサン”じゃなくて“ママサン”に乗りますよ。ハハ。」

山下という男は聞きもしないのに、あっけらかんとした調子で語った。よっぽどバイクが好きだったのだろう、しばらく博のハーレーを眺めていたが、そこへそのカミさんがやって来た。

「ケンちゃん、何してるの?早く行こうよ!」

(さすがに男はマーくんじゃあないんだな。)

「あ、ごめん、ごめん。じゃあ、失礼します。気を付けて帰って下さいね。」

それだけ言うと、山下は女の肩を後ろから抱えるようにして去っていった。女にバイクをじっと見ている姿を見られたくなかったのだろう。先ほどとは打って変わって明るく振る舞っているようにも見えた。博には、その姿が逆に誇らしげに写った。山本という男がむしろバイクよりも素晴らしいものを見つけたのではないかと思った。そのカミさんが博の好みのタイプの女性だったからかもしれない。二人が持つ清々しいほどの明るさを羨ましく思った。その幸せに嫉妬した。博は初めて心から結婚したいと思った。41年間生きてきてようやくその気になったのだ。

(ケンちゃんかあ・・・。とりあえず、海鮮丼食べに行こう!)

博はヘルメットを被り、愛馬に跨った。前章で圭子が合コンをした次の土曜日の話である。かたや38のアラフォー女、かたや出会いのない41のイケメン中年。二人が出会うのはまだ先の話である。

つづく

 

 

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