エンジェルさん、こんにちは。 婚活連載小説⑪ 作 エンジェルおじさん

《前回までのあらすじ・・・ツーリングで新婚間もないカップルを見た博は41を前にして、本気で結婚を考えたり、考えなかったり・・・・》

冨澤 博の場合

ハッピーマリッジ・パートナー。ハートのマークに手と手をつないだようなロゴマークの看板が受付には掲げてあった。エレベーターを降りたらすぐ目の前に受付が見えたのだが、博はいったん気持ちを落ち着けるためにトイレへと向かった。

(やっぱり行くのやめようかな・・・。)

ここまで来ても相変わらず、意気地のない男だった。

先週、犬吠埼に行ってあれだけ張り切って灯台の写真を撮ったのだが、マンションに帰って整理してみると博が思っていた出来とは程遠かった。どの写真も被写体が小さくまとまりすぎていて、バランスはいいのだが面白みのない絵葉書のような写真ばかりだった。博が考えていた写真は、もっと迫力のある構図だった。波しぶきが灯台に当たって砕け散り、陽の光が灯台に反射して白さをより一層際立たせている。アングルもこの前のように上から撮るのではなく、灯台を下から見上げるような角度だ。波しぶきが当たって、太陽の光を浴びて、おまけに灯台の下からとなると、海側から撮るしかもう方法はない。それこそボートかなんかで冲に出て撮るしかない。しかし本人はいい道具さえ揃えれば何とかなると思っている。

(やっぱり300mmの望遠レンズ買うかな・・・。ついでに三脚も。)

だからプロのカメラマンじゃないんだから。しかもバイクで移動するのにそんなたくさんの荷物持ってどうすんの?って、傍に誰かいれば絶対にツッコみたくなるに違いないだろう。

博はネットの通販で価格を調べてみたが、いつも買うメーカーのレンズだけでも15万ぐらいする。三脚も軽量タイプの物で2~3万はする。

(全部で18万か・・・。そういえばこのパソコンも古くなったな・・・。一緒に買い替えるかなあ。ヨドバシのポイントも貯まってたしな。)

いろんな通販サイトや大型家電量販店のホームページなどで、価格を比べていたところあるバナー広告に目が止まった。

“そろそろ嫁さんほしいなあ・・・。”アラフォーからの婚活はハッピーマリッジ・パートナーへ!

一度、ネットで面白半分で検索してから、パソコンを開く度にこの類のバナー広告が出て来るようになった。

“お見合いパーティーは○○”“運命の人に出逢える・・・”“結婚するなら○○へ 今すぐ資料請求”etc・・・。うっとおしくてしかたがない。いつもなら、放っておくのだが博はこの前の犬吠埼での山下の言葉を思い出していた。

「バイク手放したんですよ。守るべきものが出来たっていうか・・・。」

あの時の山下の顔は誇らしげだった。とてもカッコよく見えた。その守るべき人の“みーちゃん”も可愛かった。そしてそのお腹の中にいる子供もきっと守っていかなきゃならない新しい命だろう。

博は、望遠レンズと三脚は冬のボーナスまで待つことにして、その“ハッピーマリッジ・パートナー”の「あなたの結婚本気度チェック」というボタンを思わずクリックしてしまったのだった。2~3日すると白い大型封筒に入った、いろんなパンフレットや資料、担当者の名刺、“あなたの恋愛診断テストの結果”なるものが届いたのだった。ろくに中身も見ない博だったが、届いた日のその日の夜にその会社から電話が入ったのである。

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「こんばんは。冨澤様の携帯でお間違いなかったでしょうか?私、先日資料請求頂きました、ハッピーマリッジパートナーの西村と申します。資料はもうご覧になりましたか?」

西村という女は少し癖のある高い声で、流暢にまくし立てた。おそらく誰もが予想する通り、博という男は営業に弱い。若いころはネットワークビジネスで鍋やら洗剤やら一式買わされたあげく、英会話に始まり、自己啓発のセミナー、速読キット、男性エステ(脱毛)までありとあらゆるものまで、契約させられた経験がある。マンションに住む前は、アパート形式の作りだったので、新聞も3大誌と経済新聞まで取っていた。さすがに今はオートロックのマンションなので、新聞の勧誘に合うことはないが・・・。要するに断りきれないのだ。押しに弱く、素直に人の意見を聞いてしまう。さんざん話を聞いて最後に断るのは相手に失礼なんじゃないかと思ってしまうのだ。そこまで言うなら騙されたと思ってやってみるかと思ってしまう。本当に騙されているようなものだが。

今は、通販のカタログやネットが盛んになっているので、お店に行くことなく必要なものだけ買えるのが嬉しい。いつだったか紳士服専門店で、Yシャツとネクタイだけ買うつもりで入ったのにスーツ2着にYシャツ2枚、ネクタイ3本、ベルトに靴下まで買わされたことがある。確かにその時、接客した女性の営業力が素晴らしかった。多分、博でなくても・・・・・買わないよ!必要ない物まで買うバカがどこにいる?確かにこの年になるまで、独り者だったのでそれなりに金はあるのだが・・・。先日の山下を見たときに、結婚したいなあと単純に思ったものだが、帰ってきて冷静になってみると、実のところ、もう好きな物を自分勝手に買うことも出来なくなるのだなあとも考えた博であった。

とにかくその大手の結婚相談所、ハッピーマリッジ・パートナーという会社の西村に誘われて、今日はのこのこ話を聞きにきた博であった。今日は、話を聞いてみるだけだ、と自分に言い聞かせながら。まあ、おそらく入会させられるんだろうけど。

トイレで用を足すわけでもなく、しばらくうろうろしてから結局、受付の呼び鈴を鳴らした博は、奥の個室へと通されたのであった。意外に広い店内は、白い壁で統一されていてとても落ち着いた雰囲気である。日曜日ということもありほとんどのブースに客が埋まっているようだ。また、受付から横に伸びた通路には別室でもあるのだろうか。ガヤガヤと談笑しているような声が聞こえる。おそらくパーティーでも開催されているのかもしれない。このハッピーマリッジ・パートナーという会社は大手の結婚情報会社では老舗の会社らしく、日本最大の会員数がウリのようだ。広告も新聞、雑誌、インターネットまで幅広く出している。バスの車体にまでデカデカと大きな広告が入ってるのを見かけたこともある。例の「そろそろ嫁さん欲しいなあ・・・」というやつだ。

博はブースに通されると、何やらアンケートのようなものやご希望条件などを書く用紙を渡された。

・あなたの休日は? ○おもに土日祝日 ○平日 ○不定期

・出会いの機会は? ○自ら作る ○他人の紹介に頼る ○運に任せる

・いくつまでに結婚したいですか? ○いい人がいたらすぐ ○数年先 ○わからない

・お相手に優先するのは? ○価値観 ○ルックス ○職業や学歴、収入など条件

・あなたは? ○積極派 ○消極派 ○どちらでもない

・お相手に希望する年齢は?      歳~   歳

・お相手に希望する学歴は?      卒業   ○こだわらない

・お相手に希望する年収は?      万円~   万円 ○こだわらない

・お相手に希望する身長は?      cm~   cm ○こだわらない

・お相手に希望する婚姻歴は?  ○初婚 ○再婚可 ○特にこだわらない

などと細かいことがびっしり書いてある。博は休日は土日、出会いの機会は運に任せる、あなたはいくつぐらいまでに・・・を数年先くらい、お相手に優先するのはを価値観、あなたは?を消極派に〇をした。また、希望条件については、25歳~35歳、学歴を大卒、年収はこだわらない、身長155cm~165cm、婚姻歴は初婚とした。本当はお相手に優先するのは?のところはルックスに〇をしたかったのだが、当然ながらシャイな博にそんな厚かましいことが出来るわけがない。年齢を限定したのは、やはり山下の嫁さん、みーちゃんが頭に残っていたからだろう。

(あんな嫁さん欲しいなあ・・・。)

電話の甲高い声のイメージ通り、西村という女はいかにもやり手の営業マンという感じがした。少しつり目でメガネをかけていて、顔は笑っているのだが眼だけは笑っていない。博が書いた用紙を見て開口一番、西村はこう言った。

「冨澤さん、年齢が20代の方は厳しいかもしれませんね。」

「?!・・・・・・・・・・。はあ。」

つづく

 

 

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