エンジェルさん、こんにちは。 婚活連載小説⑳ 作 エンジェルおじさん

《前回までのあらすじ・・・・圭子は“趣味男の部屋”という連載記事に載せる為に、茂木編集長に従弟でバイク好きの独身男性を紹介されたのだが・・・。》

第4章  運命の赤い糸③

編集長に紹介された冨澤という男と待ち合わせたのは、北品川のファミリーレストランだった。圭子は外部に委託しているカメラマンと二人で向かった。水田というカメラマンはまだ若く、使い始めてまだ日も浅いのだが、編集に意図する写真を上手く撮ってくれて、何でもそつなく仕事をこなしてくれるのでとても重宝している。編集長は「荒削りだが、大胆な写真も撮る。うちでじっくりと育てていこうじゃないか」と顔をほころばせていた。

「水田君、今日はバイクの写真とそのオーナーの写真。バイクを整備しているところの絵もお願いね」

「分かりました。バイクならまかせて下さい。俺もずっと乗ってますから。今日はちょっと楽しみにしてたんですよ」

そういえば何度か、この水田というカメラマンも現場にバイクで直接来ていたことがある。圭子はバイクのことは詳しくなかったが、今日取材するハーレーのようなバイクではなかったと思う。もっとカラフルでサーキットで走るようなバイクだったはずだ。

土曜日のファミレスはお昼時ということもあり混んでいた。入り口近くの席で、水田と今日の段取りについて確認しているところへ冨澤という男がやってきた。入り口で周りを見渡しながら、きょろきょろしているのですぐに分かった。圭子が立ち上がると冨澤が近づいて来る。

「あのー、兵頭さんですか」

「はい。どうも初めまして。冨澤さんでいらっしゃいますね」

休日ということもあり冨澤は白いTシャツとジーンズというリラックスした服装で現れた。少し無精ひげが伸びている。仕事はエンジニアと聞いていたが、色白の優男風の体躯は学校の先生か銀行員のようにしか見えなかった。名前は思い出せないが、最近TVで水のCMによく出ている俳優にそっくりだ。そういえば何となく目から頬の辺りが茂木編集長に似ている。今まで茂木の私生活は謎で、一度結婚に失敗したという話を聞いたことがあるだけで、こうやって親戚が目の前に現れるとなんだか不思議な気がした。

「いつも義男兄ちゃん、いや茂木がお世話になっています」

「こちらこそ、編集長にはいろいろとお世話になっています。私は編集部の兵頭です。こちらはカメラマンの水田と言います。今日は宜しくお願いします」

あわてて茂木のことを義男兄ちゃんと言ったあと、少し顔を赤らめた様子が、圭子には好感がもてた。それから今日の撮影の段取りやインタビュー内容について確認をしたのだが、冨澤は意外なことを口にしたのだった。

「あのー、僕の趣味なんて大したことないですよ。バイクもハーレーといっても最近のやつだからそんなに珍しくもないし・・・。あと、僕の顔も出るのでしょうか?」

「顔は出ますけど、そんなに大きく写さないですよ。どちらかと言えば趣味の対象をメインにしますので・・・。」

おそらく茂木からは、簡単にしか説明を受けていないのだろう。直接、圭子に何とかさせようといういつもの編集長の手口だ。一般人が取材の現場ではよくあることだ。

「一度、撮影した写真や取材した原稿内容は、チェックして頂きますのでご安心下さい」

「分かりました。でも僕なんか大したことないのになあ・・・。もっとビンテージ物のバイクをたくさん集めている人知ってますけど、紹介しましょうか?」

「有難うございます。またお願いすることになるかもしれませんが、今日のところは予定通り取材させて下さい」

冨澤という男はよっぽど嫌だったらしい。従弟の頼みだからしかたなく話だけ聞いてやるかというつもりで会ってくれたのだろう。本来ならば直接自宅に訪問して取材してそれから写真撮影という流れになるのだが、先に一度、別の場所でお会いしてからという冨澤の申し出は、断れるものならここで断りたいという気持ちがあったのかもしれない。聞きしに勝る恥ずかしがり屋だ。話すときもうつむきながら小さな声でつぶやくように話す。

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それから3人は連れだって、歩いてすぐだという冨澤のマンションへと向かった。

「冨澤さん、茂木編集長とはたまに会われているんですか?」

「いえ、めったに会わないです。最後に会ったのはもう何年も前で・・・・」

道すがら冨澤の取材も兼ねて、いろんな質問もぶつけてみてもすぐに会話が途切れてしまう。ちょうどそのとき圭子の携帯が鳴った。あわててバッグの中から携帯を取り出そうと下を向いたとき、ちょうど歩道と車道の間にあった工事用のゴムカバーのような物につまずいてしまった。圭子はバランスを崩し勢いよくバッグを放り投げてしまった。体のバランスを失って、バッグと一緒にこのまま自分も転んでしまうと思ったとき、前にいた冨澤が振り向きざまに倒れかかった圭子をしっかりと受け止めていた。ちょうど身長が高い冨澤の胸の中に、圭子自らが両手を伸ばして抱きついたような恰好になってしまったのである。

「あ!ご、ごめんなさい!」

「い、いえ。大丈夫ですか?」

圭子はさっきの冨澤が「恥ずかしさのあまり顔を赤らめたとき以上に、おそらく何倍も顔を赤くしてしばらく顔を上げることが出来なかった。傍で見てる者には、たった何秒かの時間だったろうが圭子にはそれが何分かの時間に感じられた。そして冨澤の胸からは、とても表現のしようがない匂いがした。決して嫌な臭いではない。甘いような、酸っぱいような、なんだかとても懐かしい匂いだ。これは子供のころ近所にあったアイスクリーム工場の匂いだ。ずっと嗅いでいても苦にならない。

抱きついた瞬間からたった何秒かの間に、圭子はこんなことを一瞬で考えたのである。よく事故の瞬間にいろんなことが走馬灯のように浮かぶというでしょう。あれですよ。

そして圭子は博の胸から離れる瞬間にこうも考えたのである。

(私、この人好きかも。この人と結婚するかもしれない!)

つづく

 

 

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