エンジェルさん、こんにちは。 婚活連載小説23回目 作 エンジェルおじさん

エンジェルさん、こんにちは。

《前回までのあらすじ・・・・忘れた携帯を駅まで走って持って来た冨澤を見て、これが運命の出会いだと信じた圭子は自分から食事に誘うことにしたのだが・・・》

第5章  プロローグ①

(言っちゃった!自分から誘ってしまった!)

「いいですよ。でもお礼されるほどのことじゃないですよ」

そう言うと冨澤はまた笑った。

「じゃあお昼ご飯だけでも付き合ってください。冨澤さんもお昼はまだでしょう?」

「そういえば今日は朝から何も食べてなくて・・・実はお腹空いてました」

「やっぱり。時間取らせてしまってごめんなさい」

「いえいえ。休みの日はいつもこんな感じです。朝食は抜きで昼飯と一緒ですから・・・」

「そうなんですか。このあたりでいつもお食事されるところってありますか?」

「この辺では、さっきのファミレスぐらいだけど、たいしたもんないしなあ・・・。あ、そうだ!少し歩くけど美味しい洋食屋さんがありますよ」

冨澤が案内した店は、北品川の駅から歩いて5分ぐらいの商店街の通りの中にあった。総菜屋や花屋、八百屋などが立ち並ぶ中に違和感なくその店は馴染んでいた。“キッチン・フライパン”と看板に書いてある。

「ここです。そんなに大きな店じゃないけど味はまあまあです。ハンバーグはけっこういけますよ」

そういうと冨澤はカランカランと大きなカウベルの音を鳴らして扉を開けた。

午後2時を過ぎても店の中はけっこう人が入っていた。ちょうど入り口横のテーブル席にいた大学生風の男二人が立ち上がったので、そこに座ることにした。キッチンからはお肉が焼けるような香ばしい匂いと、デミグラスソースの甘い香りが漂ってくる。圭子はお薦めだというハンバーグを注文し、冨澤はオムライスを頼んだ。

「いいお店ですね。よく来られるんですか?」

「そうですね。週に3回ぐらいは来てるかも」

「そんなに!」

「仕事のときは家に帰って夕食を作るのが面倒なんで・・・。ここは平日でもけっこう遅くまで開いてるんでよく来てます」

「分かります。私も仕事の時間がばらばらで外食ばかりです。家で作るなんてことめったにないですもん」

(なんかいかにも料理しようと思えばできるような言い方だけど・・・ま、いいか!)

「そうですねえ。でも僕は料理を作るのも好きなんですよ。ここのハンバーグの味を真似てこの前作ったんだけど、なかなか難しいですね。ハハハ。兵頭さんはどんな料理を作るんですか?」

「?!えっと、そうですねえ。たまにカレーとか・・・、シチューとか・・・」

(一応、料理だわよね・・・)

「カレーですか?!僕も大好きです、カレー!僕がよく作るカレーはポークカレーです。豚肉のブロックを買ってきて、にんにくでこんがり焼いて玉ねぎも飴色になるまで弱火でしっかり炒めるんです。それからかくし味としてオイスターソースとか・・・・・・・・」

それから冨澤は延々とカレーのレシピを語りだした。カレーのルウも市販の物を二つ混ぜ合わせたりとか、最後にらっきょう酢を数滴たらすだとかいろんなこだわりがあるらしい。料理の話をしているときは、さっきバイクを触っていたときと同じ顔をしている。子供が遊んでいるときみたいに嬉しそうな顔をする。分かりやすい人なんだなと思う。圭子はずっと疑問に思っていたことを聞いてみた。

「カレーを作り過ぎた場合ってどうしています?冷凍するとじゃがいもとかスカスカになってしまうじゃないですか?あれってどうしたらいいんですか?」

「あ、じゃがいもですよね?あれはいけませんねえ。じゃがいもの中の水分が出ちゃって繊維が壊れてしまうから食感がパサパサになってしまうんですよね。僕は極力、カレーは冷凍はしないようにしています。出来るだけ冷蔵庫に入れて2日以内には食べきるようにしています。よく、一晩寝かせたカレーが美味しいっていうでしょう?僕はどちらかというと出来立てのサラッとしたカレーが好きなんで、じゃがいもはあんまり入れないんです」

「・・・・・・」

「すみません。何か一人でしゃべってしまって・・・」

「いえ。でも冨澤さんってお料理もご自分で出来て、すごいですね。私なんか料理のうちに入らないわ・・・」

「いや、全然たいしたことありません。料理なんかうまくたって・・・」

冨澤が何か言いかけたところで、注文した料理が運ばれてきた。ジュージューと鉄皿の上でハンバーグが焼ける音がする。デミグラスソースがたっぷりかかっていて、目玉焼きも横に添えてある。冨澤のオムライスもふわふわの玉子の上に鮮やかに赤いケチャップがかかっている。

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「ハンバーグも美味しいけど、ここのオムライスも美味いですよ。とても懐かしい味がします。昔ながらの正統派オムライスって感じです」

「美味しそう!頂きます!」

圭子もまだ熱そうなハンバーグをナイフで切り分けてみた。みるみる肉汁があふれ出てくる。ふーふーと口で冷ましながら切り分けたハンバーグを口に入れる。

(美味い!)

「いかがです?」

「美味しいです!こんなに美味しいハンバーグ初めて食べました!」

「でしょう?お肉もふっくら焼けていて、デミグラスソースがまた美味いんですよ。目玉焼きを崩して黄身をデミグラスに混ぜてごはんにかけて食べるともっと美味いですよ!あ、このオムライスも食べてみて下さい!」

そう言うなり冨澤は自分の持っていたスプーンを圭子に差し出した。

(?!え!なんなの、この感じ?料理をお互いに交換して食べるって、まるで恋人同士じゃない!)

「どうぞ、どうぞ!」

冨澤は屈託のない顔で微笑んでいる。

 

 

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