第7章 プロポーズ①
「私、今、友人の紗子と会ってるの。いつか話したでしょ?女子高時代の友達・・・」
《「そうでしたか。ごめんなさい。もっと早く連絡すればよかったなあ。つい、携帯を鞄の中に入れたまま新幹線に乗ったものだから・・・」》
「とりあえずマンションに帰ってて。後で行きます」
《「わかりました。じゃあ、僕も夕食まだなんで適当に食べて帰りますから、ゆっくり来ていいですよ」》
電話の向こうの博の声は歩きながらだったのか、息がハアハアとはずんでいるようだ。ホームに流れるアナウンスの声も聞こえる。
「どうしたの?何かあったの?」
一部始終を見ていた紗子が声をかける。
「うん、彼がね、今から会いたいって。今、新幹線で品川に着いたんだって」
「え~!圭子、いつの間に彼が出来たの?」
そういえば紗子にはまだ博とのことを話してはいなかった。圭子は博との出会いから現在に至るまでをかいつまんで話した。紗子は、お酒を飲むのも忘れて目を丸くして聞いている。すると今まで黙っていた紗子の彼氏の平岡という男が口を開いた。
「じゃあ、いったんこちらにお呼びしたらどうです?お食事まだなんでしょう?僕たちは全然かまいませんよ」
「そうよ、圭子。そうしなさいよ。一緒に食事しましょうよ。今からお呼びしなさいよ。品川からならすぐだわ」
平岡は意外にもにこにことした人の良さそうな男だけかと思ったら、話すとてきぱきとした物言いをする男だった。確かにしっかりしたところがないと、この紗子の手綱を握ることは無理かもしれない。
もう一度、博に電話をするとまだ品川駅構内にいたらしく、それならば今からこっちに来るという。よっぽど早く圭子に会って何か伝えたいことがあるのかもしれない。いずれにしろ紗子たちのいる前で、博と話をするわけにはいかない。博が来たら紹介だけして失礼すればいいと思って、博も店に呼ぶことにした。
「せっかく二人で食事してるのに悪いわ。ご紹介だけしたら失礼します」
「圭子、何、言ってんのよ!そんな遠慮しないでよ。私もどんな人なのかじっくり見てみたいわ」
真面目な顔をしてはいるが、おそらくこの女はただの興味本位だろう。しばらく、雑談を交わしているとほどなくして博がやって来た。品川からならタクシーで来てもすぐだ。
「失礼します。冨澤と言います」
息を切らして駆けつけたような感じだ。額の汗をハンカチで拭っている。4~5日逢わなかっただけなのに、なんだか久しぶりに見たような気がする。博の顔が眩しかった。
(話したいことってなんだろう?)
圭子は博の言った言葉だけが気になってしかたなかった。
「圭子、素敵な人じゃない!」
紗子が耳元でささやく。
「こんばんは。どうも初めまして。圭子の友達で小島紗子と言います。こちら、平岡さんです」
「あ、どうも。平岡です。よろしく!」
「こちらこそ、冨澤博といいます。いつも圭子がお世話になっております」
「わ!圭子だって!なんだかもうご主人みたい!」
「あ、いえ。そんな・・・」博がしどろもどろになる。
「ちょっと!紗子、やめなさいよ」
あきらかに冨澤を見てから紗子の様子がおかしい。変に浮かれている。やっぱり博をここに呼ぶんじゃなかった。適当なところで帰ろう。
「せっかくですから、乾杯しませんか?」平岡が切り出した。
「そう、そう!カンパイしましょ!冨澤さんもけっこう飲めるんでしょ?」紗子が空のグラスを差し出した。
「いや、僕は酒はあんまり・・・」
「博さんは、お酒あんまり飲めないから、ウーロン茶にしてあげて」
「あら、そうなの?」
紗子はにやにやして圭子の顔色を窺っている。
「なによ、にやにやして」
「いいなあ~と思って」
「なにが?」
「圭子に博さんかあ・・・」
「・・・・・」
「羨ましいなあ・・・」
「何言ってるのよ!自分だって結婚するんでしょ?」
「あはは、そうか!その報告で圭子を呼んだんだっけ。アハハハハ」紗子が大口を開けて笑う。
まったく、いい加減な女だ。博を呼ぶんじゃなかった。博に紗子のような軽薄な友人がいることを知られたことが恥ずかしかった。とりあえずカンパイはしたものの、『私たち今日はここで失礼するわ』と言って、博と店を出た。
紗子は、もう少し一緒にいてほしいような顔つきをして、平岡は相変わらず黙ってちびちびと酒を飲んでいたが。
外に出たらポツリポツリと雨が降り出した。博はビジネスバッグの中から折り畳み傘を取り出した。
「やっぱり雨になったか・・・」
「夜は雨になるって言ってたわね」
そういえば、大型の台風が接近していて秋雨前線が活発になっているとニュースでやっていた。
『少し歩きましょう』そう言うと博は圭子の肩を抱いて傘の中に招き入れた。博のいつもの匂いがする。
「ごめんなさい。今日は全然連絡が出来なくて・・・。急遽、神戸の支社に呼び出されてしまって・・・」
「心配したわ・・・。何かあったの?」
「ええ。まあ・・・。ところでお母さんはもう大丈夫?」
「うん。思ったより大したことなかったみたい。それより博さん、お話ししたいことってなあに?」
「実は、僕、急に転勤になったんです。引き継ぎが済んだらすぐにでも神戸に行かなければなりません」
「?!・・・・・」
「メールしようと思ったんですが、口で言った方が早いと思って、あえてメールしなかったんです。ごめんなさい」
「・・・・・・・・」
雨音が傘の中で大きくなったような気がした。
つづく
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